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第1話

ユウヤの話 来週末スケートに行ってみない?って誘ったらあっさり断られた。 「あ、その日は友達の結婚式なんです」 「へー、二次会でかわいい子と知り合えるといいね」 むっとするかなと思いながら、男友達同士ならなんてことのない返事をしたら反応がない。振り返ると斜め後ろから画面を見ていた星崎くんが、拗ねているのか怒っているのか分からない表情で僕をじっと見て、口を開いた。 「かわいい子がいても何も変わりませんよ」 僕の事を好きなこの人を恋人と呼ぶのを躊躇するのは、本当は自分に自信がないせいかもしれない。毎週のように会っては、ご飯を食べたりデートのようなものをしたり、まあそれなりの事をして過ごしたりもする癖に。 「ふうん、もう女の子とは付き合わないの?結婚は考えてないの?」 止めとけばいいのについ意地悪を言ってしまうのは星崎くんの反応がかわいいから。でも最近しっかり言い返すようになってきたよな。 「二次会で知り合った女の子と付き合う予定はないし、結婚を考えた事なんてありませんよ。名前を継げって言われてる訳でもないし」 下瞼に少し力を入れて目を細め、悔しそうな表情をしているのが見えてちょっと嬉しくなる。手を伸ばして髪に触れると目を逸らさずに顔を赤くした。 「その次の週はクリスマスだから駄目ですしね」 「クリスマス?」 僕の言葉に首を傾げた星崎くんが答えてくれた。 「どこ行ってもカップルだらけで大変ですよ」 ああ、そういう事か。 パソコンから小さな音で流れている曲に被さって大粒の雨が窓を打つ音が聞こえる。 ガラスを叩く雨粒の模様って自然の造形のなかではかなり粗雑な方に入るな。もっときれいに見えれば雨の日も楽しいのに。 「雨脚が強くなってきた。晩御飯、どうする?」 フリーランスの僕と違い、彼は明日仕事のはずだ。 「雨だけど食べに行きませんか?」 「じゃあ出よう」 狭い玄関で「ちょっと肩貸して」って言って靴を履いた後、目が合った。 いつものように真直ぐに僕を見つめる視線に引っ張られてそのままキスをした。 この後何もしないよっていう、外でご飯を食べる時の、部屋の中でする今日最後のキス。 思ったより降っていた雨に足元を濡らしながら駅近くのお店で定食を食べて、店の出口で短くお休みの挨拶をする。 明日は仕事なので帰ります、って言い訳みたいに言って星崎くんは雨の中帰って行った。 少し会釈をして去って行く傘と、その下に覗く彼の背中を目で追っていた。 ここ最近は、恋愛対象が男であるせいで困った事はないけど、部屋の中以外で触れないのは案外寂しい。 別れ際にいつも少しためてから「じゃあまた」という星崎くんの口元を思い出した。キスとまではいかなくても、抱き寄せたくなることだってある。 そう思っているのは自分だけじゃなければいいな、と思う。 じっと立ち止まって見送っていると道行く人が横目で見ていた。濡れた傘をもう一度開いて雨の中を歩き出せば、もう誰も僕のことを気に留める人はいない。 やりかけで放り出してきた仕事が家で僕を待っている。 白とピンクとドレスのファンタジーワールド、結婚式のパンフレットだ。 現実世界では社会のしがらみに惑わされている僕が、あらゆる妄想と願望を結婚という幻想でデコレーションしてゆくのだ。

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