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第12話
星崎潤の話
もう日付も変わってるし、明日は仕事でしかも年末最終週だし、床の上って結構寒い、と事は半分くらい忘れるようにした。
ただ、お互いに相手の一番気持ちいい事をしながら、一緒に気持ちよくなって達する。細 やかだけど、簡単に手に入れることができる幸せだ。
ユウヤさんはずっと下に寝転んで、僕を上にしてくれていた。
「このまま待ってて」
と言われて、下着をずらしたままの状態でラグの上に座っている。
事後、と言ってもお互いに手で出しただけだったけどユウヤさんがラグを汚さない様に腕を伸ばしてサイドテーブルの下にあるウェットティッシュを取る。
「もうこんな時間だ…帰らないと明日辛いんじゃない?」
大人しく待っていた僕の手脚や腹を拭いながらユウヤさんが言った。
「そうですね、帰ります」
クシュン!
くしゃみしたのはユウヤさん。
「もしかして風邪ひきました?」
「う…、そうかも。寒気がする」首を押えながら頭を左右に振っている。料理作ってるときも同じような事をしてたから、前からひいてたんだろうな。
「床の上で始めちゃったから…身体が冷えたんですね」
「あのね、君が可愛い事言うからそうなったんだよ。鍵は今度会った時頂戴、あとタメ口になると強気になるからやっぱり禁止」
訳の分からない事を言いながら笑っている。
「薬飲んで暖かくしてください」
玄関先で扉を開ける前に、おやすみなさいという代わりにキスをする。
「よいお年をお迎えください…」
「来年もよろしくおねがいします」
「あの…」
(いつか一緒に住めたらいいですね。そんな日が来るのか分からないけど)
心の中でつぶやいた。
叶っても叶わなくてもいい。少しだけ余分に期待をしたかっただけ。だから何て続けようか考えながら口を開きかけた時、先にユウヤさんが言った。
「…好きな時においでよ」
うん、そう言ってもらえただけで今は十分だ。
「はい、ちゃんと鍵かけてくださいね。じゃあ…」
ゆっくりと向きを変えて足を踏み出す。僕はきちんと笑顔を作れただろうか。
クシュン!
くしゃみの後に扉の締まる音がした。
ポケットに入れた二人分の鍵を掌に握りしめて、自分の部屋に帰るため歩き始める。
いつの間にか雨の上がった夜空を見上げたけど雲のせいで星は見えなかった。
初めて会った時に見た、星のけむる様な星空じゃなくてもいい。
晴れてさえいればこんな都会でも、星は見えるはずだから。
***
その翌日から酷い風邪をひいたユウヤさんのお見舞いに行くことになって、さっそく鍵が役に立ったのでした。
<終わり>
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