「今日で高校生活も終わりだよな」 そう言って外を見る横顔を見つめて溜息を吐く。最後に君をこんなに間近でしかも話せるなんて僕は幸せだ。 見続けて気持ちも言えない俺へのご褒美かもしれない。この先何年経っても、今日のことは忘れないよ。 「でさ…」 向き直った君と目が合い、その視線から反したいのに反らせない強い力で見つめられる。 「風見、言ってみて。その…告白」 言われた意味が脳に届くまで時間がかかったのはその視線のせいだってことにする。 「え？…どういう…」 「風見が好きな奴…ここにいない？」 ここには僕と君と二人だけ。二人だけ…え？…ええ！？ ガタンっ！と思い切り仰け反って立ち上がろうとした僕の手を咄嗟に取られた。 「今日は逃がさない。間違ってないだろ？」 背中に冷たいものがゾワっと走った。なんで？なんでバレてる？ゾクゾクと震えが湧いてきて指先から凍っていく…なのに、視線を外してくれない君から目が離せない。いつも逃げてなんかいない…逃げてなんか… 「俺が間違ってなければ風見はここで毎日俺を見てた。すれ違う度、お前、いつも遠慮がちに笑ってくれてた。俺が笑い返せば俯いてそれでも嬉しそうにしてたよな。違う？俺の自惚れ？」 これは好転なのか暗転なのか。今の僕には考えてる余裕はない。自惚れなんかじゃないよ。 僕はずっと君を見てた。君を好きで好きで好きで…どれだけ恋しくて泣いて苦しんで…それでも諦めきれなかったこの想い。 同性というだけで恐怖と戦った毎日。それでも君のことが忘れられなくて。どんなにこの気持ちを吐き出せればいいかと思ったか。それでも未来のない希望はまだまだ心に燻って君を想う。 「…弓張君…」 堪えてたものは目から零れ落ちる。それをじっと見つめている君はとても綺麗な笑みを浮かべた。 「イケメンは泣いてもカッコいいとか反則」 そう言って抱きしめてくれる。僕より少し小さい背の肩先にもたれかかった。 「俺も見てたよ。ずっと、お前が誰を見て誰に片思いしてるのか、ずっと見てた。ずっと見ててお前が俺を見てたらいいのにって祈ってた」 ポンポンと背中を撫でる君の手は優しい。 「俺を好きになって。お前が好きだって言ってくれたら、幸せになって、舞い上がって、踊り出すよ、俺」 「…踊って見せてくれる？」 「ああ。踊るさ、いくらでも」 「じゃ…舞い上がって」 「よっしゃ！」と声を上げ、僕の手を取って机と机の間を滑るようにくるくる踊り出す。おわっ！とかイテッ！とか声を上げながら僕と踊った。 黒板の前の教壇にたどり着き、君は隅からぐるりと教室を見回す。そして教壇に手をついて空席の机に向かって話し出した。 「ここで学ぶことは今日で終わるけど、ここで出会った俺らはここを出てから始まっていく。楽しく二人で歩いていきたい。時には踊るかもしれないけど」 横目で爽やかに笑い僕の手を取る。 「踊りたくなるさ一緒にいたら。幸せだって叫びながら踊ろうぜ！」 引かれた君の手は熱く汗が滲んでいた。 君も精一杯の想いを僕に… そして僕達は…手を繋いで教室から駆け出した。