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第9話

「全然荷造りしてないとか、バカなのか」 寮の退室日だというのに、全く荷物をまとめてないと焦ってダンボール箱に衣服を詰めている太平に、巴弥天は呆れながらも、備え付けの家具からダンボール箱の中に太平の生活用具を入れるのを手伝う。 「すっかり抜けてた」 「昨夜言ってくれりゃ、さっさと手伝ったのに」 ブツブツと文句を言いながら、巴弥天は素早い機動力でダンボール箱を次々に埋めていく。 「昨日は、ほら、ピロトークとか大事だし」 「大体、太平は後先考えて動かなすぎるんだよ……ホントに心配になる。ちゃんとこれからひとり暮らしできるのか」 肩をそびやかしてガムテープで封をして、きっちり荷造りをしている巴弥天の背中を見やり、太平は自信なさげに笑う。 「料理もできないし、実は不安だけど。まあ、電子レンジあれば、大体問題無いよな」 カップラーメンも沢山種類があるしと続けた太平に、巴弥天は半眼を向けて、はああと大きく息を吐き出す。 「.....次の賃貸更新の時は、引き払って俺のとこにこい。卒業までは、面倒見てやるから」 巴弥天が発した言葉に、太平はばっと顔を輝かせてやったあと言って抱きつく。 「ハヤテ、マジか!?なんなら、すぐ引き払うけど!」 「バカ。引き払うも何も入居してないだろ。敷金礼金とかもったいないだろ」 「キャンセルするし。俺、ハヤテのうちの子になる!」 わしゃわしゃと嬉しそうに頭を振り乱して擦り付ける茶色の髪を撫でて、目を伏せる。 変わらないものなどない。 それは、多分これからもその先も変えられない気持ちだ。 だけど、変わっていく事象の中で、信念さえあれば。 ただ、思い続ける気持ちが互いにあれば、消えることはないだろう。 色即是空。 変わるすべての景色を、二人で歩みたいと互いに願うならば。

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