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 カチコチと単調な音が続く。  冷ややかな空気に感覚が麻痺していく。  もしかして、もう、元の様には戻れないのかなぁ…  凍て付く透明な塊が目の前に立ち塞がる。 。 。 。 。 。 「船山昇!ちゃんと働けー!」 「ピッチが落ちてるぞ〜!板氷全部で3枚、お前のノルマだからな!」  でも、もう、手がつべたいですっ 感覚が戻りません!! 「だから研ぎ班とどっちが良いか選ばせたじゃないか。砥石も使えないなんて、俺の弟子にはなれないな!」  本格的な包丁研ぎの設えの前で、調理鋏を分解しながら土井さんが言う。  弟子じゃなくてもいいんですよぉ…  和食に詳しい土井さんに、出汁の取り方を聞いただけなのに、話が雪だるま式に大きくなって。  リビングには模造紙に書かれた大きな文字 「独身寮調理教室〜土井先生に学ぶ和食〜」 …こういう小道具、作るの好きなのは服部さんですね?  悪ふざけが大好きな社長から「寮の新年会として予算使っていいぞ」とのお墨付きで、全員参加の調が開催される事になった。  独身男20名が、出汁とって吸い物、米研いで酢飯、刺身捌いて手巻き寿司!! 「レンタルした調理道具がさー!刃がナマクラで赦せないからさー!研いでやらないとさー!素人が怪我するからさー!」  体の動きに合わせて愚痴るとは、服部さんなかなか器用ですね。 「この空き部屋、冷蔵庫無いからな。その氷が肝心なんだよ、船山。砕いたらジップロックに入れたまま保冷に使って、料理が完成して宴会が始まったら飲み物に使おうぜー♪」  はいはい。やりますよ。  自治会!とか、全員参加!とか、正直面倒だなーと思っている。  先輩二人がノリノリで準備していたのは知っていたけれど、運良く今週は多忙で、巻き込まれなかった。  チョーキョー当日まで逃げ切って、一般参加の11時に来るつもりだったのに…。  数をこなすと、ツボというか、氷の"目"がわかる様になってきて、威圧感タップリだった氷柱はみるみるピックで砕かれていく。  部署も勤務地もバラバラ、単なる寄せ集めだったこの独身寮。手巻き寿司パーティーの妙な一体感で、ほぐれて、そして繋がる。  たまにはこうして集まって酒を呑む日があったって良いか♪と、奔走してくれた幹事に感謝した。 …こんな感謝の言葉なんか、直接は絶対に言わないけどね(絶対巻き込まれるから)。 <調理教室編おしまい>

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