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砂糖1.2

 おまえにはやらないって……? 「今日、俺がボタンを渡したのは、今日でさよならの奴だ。葛西は、卒業したらさよなら、でいいのか?」  ―――!! ダメ絶対!  おまえ、ボタン量産しながらそんなことを考えていたのか?  手元の紙袋をクシュクシュ丸めながら、高梨は話し続ける。 「俺、最初はスブタなんか来たくなかったんだ」  おまえもこの学園が滑り止めだったな。   「同じ中学の友達も居ないし、どうにか俺の場所を作らなくちゃいけないって焦って、なんでも引き受けてやってみたんだけど、それでますます浮いちゃってさ。  みんな俺に押し付けてあとは知らんぷりだろ。なのに、お前だけが「ありがと」って。「手伝うよ」って。自分から声かけてくれたんだ。  一年のはじめ、体育祭のクラス委員が決まらなくて皆だんまりしてた時、『高梨に押し付けるんなら俺も一緒にやる』って、葛西が手ェ挙げてくれてさ。嬉しかったんだ。  それからも、引き受けるだけ引き受けて、困って振り向くとさ、その度におまえが居るじゃん? いつも支えてくれているから、何でも安心して飛び込めたんだ。 調子に乗って生徒会長までなっちゃったのは想定外だったけどな」  ……高梨、考え無しじゃなくて確信犯だったのか。 「この学園に居る間、俺が忙しくしてたら、おまえも忙しくて他の奴に気を取られずに済むんじゃないかな、なんて思ってたんだ。ズルい手を使ってごめん。」  高梨は、悪戯っ子のように笑ったと思うと、急に思いつめた顔をして俺の手を取った。 「独り占めしたかった。葛西の時間も、そのまなざしも。他の奴に構うところなんか見たくなかった。  いつからだろう、ずっと想ってたんだ」 「高梨……」 「だから、今日、このボタンをお前にやることは出来ないの! わかったか!」  高梨は、最期の1個のボタンを紙袋ごと丸めて、上着のポケットに押し込んだ。そして俺の手をつかむ手に力を込めて、こう言った。 「これが、こないだお前が聞きたがってた『浮いた話の一つ』!  卒業前に聞きたいって言ってた俺の恋話!  ……んで、お前の『浮いた話』はどうなのよ?」  きっと、この質問も、答えなんか判ってて言ってる。この確信犯め!  だから、掴まれた手をちょっと持ち上げてほどき、そのまま指を絡め取った。 「浮いた話を聞かなくたって、隠し持っているのはお前も俺もドッコイだろ? 今更なんだよ、阿呆」  在学中は学園の為に頑張ったんだから、自分のことは卒業してからたっぷりすればいいでしょ。  これからたっぷり。  初めて絡めた指の感触が照れくさくて、逃げようとするけれど、緩めてなんかやらない。  散々助けてやったんだ、これくらい我慢しろ。 「学園の為に色々頑張ったお陰でスブタ(この学園)大好きになったよ。進学だって内申が良かったからすんなり決まったし、夢もできた。俺、教師になって、スブタの先生になるから。  スブタ(誉田学園)を有名にするの、俺のライフワークにする!  葛西は専門学校で経理を学んで、2年後に俺より一足先にここに戻るんだ。で、もう2年後、新任で配属される俺の給与明細を書いてよ!  あ、その前に教育実習に来るから、事務手続きおまえがやってよ!俺、書類書くの苦手だから」 「高梨、俺の就職先まで勝手に決めんな……」 「だって、俺の未来に、お前が絶対必要なんだよ!  ……早速だけど、来週月曜が学友会の会議だから。第48期卒業生代表、俺とおまえだからヨロシク!」  ―――だからおまえは! どうしてそうやってなんでも背負いこんでくるんだよ……。 <おしまい>

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