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醤油1
「浮いた話を聞かないのはおまえもドッコイだろ?
スブタなんか気の毒なくらいモテないやつ揃いだ。
他校から探してくる暇、俺もおまえも無いじゃないか!」
無理だよなぁ、とカラカラ笑い飛ばす高梨は予想通りの姿で。俺が期待した通りで。
学校内では見せないだけで、俺には言わないだけで、好きな人が居たって不思議ではない。誰か思う人が居るんじゃないかと思うくらい、高梨は充実した表情で、いつも楽しそうで。大事な人を護っている男のような強さがあって、人を惹き付けるんだ。
ここを卒業しても、高梨は変わらず人を惹き付け続けるんだ。
もしかしたら俺の手助けなんか無しでも、難無く役目を果たせたのかもな。手助けしてる気になって、頼りきって居たのは俺の方かも知れない。
俺、高梨から卒業しなくちゃいけないんだな。おまえの第二ボタンを持っていたら、卒業して会えなくなってもその強さを感じて居られるだろうか。
こっそり1つ、増やしておこう。
。 。 。 。 。 。 。
あっという間に卒業式の日はやってきた。
在校生の送辞が済んで、答辞の壇上に立った高梨は、醤油顔を凛々しく引き締めたいい男だ。
感動の、名物会長最後の挨拶で……やっぱりわざと酢豚学園って言いやがった! それも3回!
あーあ、スブタでもいいよ、もう。甘酸っぱいとこも、温かいトロミも、酢豚の餡は高梨っぽいよ。個性的な連中をなんだかんだでひとつにまとめてしまうとこ、ソックリじゃないか。
最後の最後までやらかしやがって! 酢豚会長、お役目ご苦労様でした。
卒業式が終わり、申請用紙の半券を持った生徒が集まってきた。高梨は、一人ひとりにきちんと声を掛け、成し遂げた栄誉を共に喜んでボタンを配り続けた。
「オレが有名になったら、テレビ番組で同級生を探す企画があったらおまえのこと話すよ!」
「こっちこそ! 絶対有名人になってやるぞ!」
ボタンを貰って生徒たちは未来の誉田学園の旗印になる。優れた後輩が集まってくるに違いない。
高梨の愛校心は、次の世代に引き継がれた。
「葛西―! どうゆうこと? これ、ボタン一つ余ったんだけど。」
ほぼ空っぽになった紙袋を振りながら、高梨が俺を呼ぶ。そりゃあそうだ、俺が自分用に1個増やした分だ。
「それ、俺の分。三年間頑張っただろ? だから俺にくれ」
出来るだけ、しれっと平坦な口調で言ってみた。
高梨は、眉をひそめて言う。
「は? なにそれ。おまえにはやらねーよ!」
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