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第5話 一挙両得
「いじけてるの?でも洗わなきゃ突っ込めないでしょう?」
そうですか、やっぱり。そんな気はしてました。ここにね・・・え、突っ込む?
「む、無理です。帰してください!」
「もうサインしたよね、違約金は二百万円」
監督の笑顔も怖いだけです。俺の味方はここにはいません。もう終わってますね。
香月さんと名乗る男性が俺に「はい」と服を渡してくれました。優しい。まさか帰してくれる?
服を着ると、こっちねと手を引かれました。
「内容変えるから、痛い事はもうないからね」
え?痛い事があるはずだったんですね?その前にやっぱり帰してはもらえないって事ですね。
促されベッドに腰掛けると、アップで綺麗な顔が近づいてきました。
「髪長い・・伏せた目ってこんな感じなんだ」
心の声が漏れてしまいました。僕はなに考えて・・しっかりしなきゃ。
「何だか色っぽい目、誘ってくれてる?」
僕が?色っぽい目って・・・いつしました?
挙動不審になっていたら、香月さんに両手で頭を包み込まれました。
耳を覆われ聴覚が遮られると他の部分が敏感になるのですね。初体験です……。
香月さんの付けている香水の甘い香り、なんだか震えが来てしまいます。
目を閉じて、口付けられ。
「ん、くっ」あれ?僕って、興奮してる?長くて綺麗な指が滑る・・気持ちいい。やわやわと、身体を触られ女性の気持ちが…え?分かっちゃ駄目でしょう。
ん?そうじゃない、おかしな気持ちになってきているって、どういうこと?
「次いくよ」
監督から声がかかりました。
その瞬間、服が剥ぎとられ、僕は驚きと恐怖で絶叫する事になりました。
まさか、これが僕のデビュー作になるなんて。
「お疲れ様。はい約束の出演料」
下半身に残る気だるさと腰の痛みと引き換えに、もらったお金は三十万円。香月さんの出演料が実際大半だったけれども、たった数時間で稼げる金額じゃありません。
「こんなに・・・」
そう言う俺に香月さんが笑いながら声をかけできました。
「気持ちいい事してお金もらって一挙両得!」
そりゃ、最後はつい声が出てしまいましたけど、最初は怖かったし、両得って言えるかどうか。
まあ、あそこにあんな物が入るって事自体驚きで、まだちょっとムズムズと・。
「契約の通り、斎藤ちゃん、うちの専属だからね」
え、監督?・・・今何と?
「確認させないでサインさせるのって犯罪じゃないの、監督?」
香月さん、笑い話ではありませんよ。
「社会ってそんなに甘くないよ。で、次回作決まったら連絡するから。携帯の番号は?」
言われて素直に答える僕もどうにかしています。
番号を言った途端に着信が。
「それ俺の番号。登録して。将生君、君の事気に入っちゃった。次もよろしくね。」
「嬉しい…」
え?僕は、今何言ったのでしょう?
だって、香月さんの笑顔って素敵・・・。次もって、また会えるの?え?違う!決して会いたいわけじゃない。変な考えを追い払わなきゃ。
「……本気にしてもいい?」
髪に優しく口付けられました。あ、腰砕けそう。あれ?やっぱり僕って…。
駅まで送るよと香月さんに言われ、そこに何故かはにかむ自分がいました。
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