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第13話

シャワー浴びて、服を着る。 いつも誰かと寝た後は、この何気ない行為に何も感じなかったけど、今は何だか物寂しい。 大好きな人と、ずっと肌を重ねていたい。 そう思うからだろうか。 「もも、喉乾いたでしょ。紅茶淹れたよ」 「ありがとう」 紫音くんは、僕が好んで飲む紅茶に砂糖2匙、ミルクを淹れて運んでくれた。 僕の好みがよく分かってらっしゃる。 温かい甘い紅茶が体に染み渡る。 「紫音くんは、T大に進むんだっけ?」 「うん」 「実家から通うの?」 「いや、一人暮しする。マンションも買ったし」 僕は少しむせた。 え、買った?借りたじゃなくて? 「…買ったの?」 「うん。だってそこに住むつもりだし。家賃って面倒だし」 さすがセレブ。 「そ、そっか。またマンション教えてよ。遊びに行くから」 僕はにこりと笑ってそう返事をすると、紫音くんは「は?」とキョトンとした顔をした。 「え?」と僕もキョトンとする。何か変なことを言っただろうか…? 「何言ってるの?同棲するに決まってるでしょ?」 「え!?」 どどど、同棲!? 「まさかさっきの誓いの言葉、もう忘れたの?」 紫音くんの顔が恐ろしいことになっている。 誓いの言葉って… 『私…っ中森桃也は…、花森紫音と、一生を…共にすると…誓います』 あれかー!!! 「え?まさか、もも、あの誓いの言葉、嘘だなんて言わないよね?」 笑っているけど、笑ってない。 そんな絶対零度の微笑みを湛えて、紫音くんは腕を組んでいる。 「あ、その場の雰囲気で…いや、誓います!覚えてます!!」 身の危険を感じた僕は、何度も頷いた。 「そう、良かった」 紫音くん、恐ろしい…。 「あ、でも僕、ここの寮監だし、引っ越しとかすぐにできないかと…」 「それはもう代わりの人を見つけてもらってるから大丈夫。それとさっき電話で引っ越し業者に来てもらって、荷物は全部俺の新居に運ばせてるから大丈夫だよ」 「うそ!?いつ、電話したの?」 「ももがシャワー浴びてる間に」 紫音くんは優雅に笑いながら、紅茶を飲んだ。 紅茶を飲む姿も王子さまみたいで素敵です(現実逃避) っていうか、あの短時間でそこまで済ませてしまうなんて、なんて仕事のできる人なんだろう。 「ももは今年度限りで、寮監と臨時教師を辞めて、俺と同棲するので、そのつもりでいてね」 「じゃあ、お金はどうしたらいいの?」 「俺が出すから大丈夫。ももは俺のところで永久就職だから」 え、永久就職? 「ヒ、ヒモってこと…?」 「普通、永久就職って言ったら奥さんを意味しませんか?ももさん」 「お、奥さんって…僕も働きたいよ…」 今まで働くのが当たり前だったから、急にそんなこと言われても困る。 「だーめ!ももは、すぐに他の男を誘うから」 「そ、そんなことしないよ!」 紫音くんは僕の唇に人差し指をそっとあてた。 「ももは、俺の奥さんってことをしっかり教育していかなくちゃいけないから、しばらくは俺のために家事をしてください」 有無を言わせないその笑顔にドキドキしながら、僕はこれからのことに思いを馳せた。 僕も今日で学園からは卒業するみたいですが、これからやって来る新生活に慣れるには時間がかかりそうです…。 「紫音くんを探して」終

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