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涙 2

病室に入ると、ベッドに寝ている頭に包帯を巻いたカナの側へと足を進める。 顔はかすり傷が所々あり、損傷は酷くなかった。 というより、全体的に目立った外傷が少ない…? 「思ってたより、傷が少ないだろう?」 北見さんは、俺が思っていたことと同じことを言った。 「俺も最初見た時、驚いた。頭から血が流れていて、それ以外の所は大きなものもあったけど、かすり傷だけで。骨折もしていない」 骨折も…ない。 「頭の傷はもう縫ってあるから、あとは意識が戻るのを待つだけなんだけど…」 ーポタッ あ、 「…よかっ……」 ーポタッ 言葉は最後まで言えなかった。 本当によかった。 例え意識がなくたって、生きてるだけでいいんだ。 「…っう…」 よかった。 生きていて、よかった。 それだけしか、思わない。 「…すみません、いきなり」 「別にいいよ。俺としては、安心した」 「安心…」 「…いや、悲しいけど、ちょっと安心したような、変な感じ」 悲しい…? 「……コーヒーでも飲もうかな。今から自販機へ買いに行くけど、ナオくん何がいい?」 「い、いえ!もう帰ろうかと…」 「君、その顔結構酷いよ?」 「え、」 「落ち着くまでいるといいよ。飲み物、何がいい?」 「あ……お茶で」 「分かった。じゃあ買ってくるから」 酷い…か。 まあ、あれだけ泣けばな…。 ちょっと目、痛いかも…。 北見さんて……本当いい人だよな。 陽に少し当てられているカナの顔は穏やかだった。 もう見れないと思った、こんな表情。 …目覚めていない時に見れて良かったかもしれない。 「…」 そっとカナの頬に触れると、手に微かな暖かい体温が広がった気がした。 「………カナ」 もう許されない名を呼んだ。 今のうちに呼びたかった。 カナには、もう関わらない。 きっとそれが一番いいのかもしれない。 許してもらおうとかそんなこと思わない。 伝えたいけど、それは多分、自己満足に過ぎないんだろう。 やっぱりこんなこと、言えない。 最低で自分勝手な理由。 目が覚めたら、本当に、関係のないただの他人になるから。 だから、今だけ許して。 触れることを、髪を撫でることを、名前を呼ぶことを、今だけ。 「カナ、…」 許して。 「………?」 …今、指が、…動いた? 顔の方を見ると、ゆっくりと、カナの目が開いた。

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