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雨の中の光 3

料理は本当に美味しいものばかりだった。 男でこんなに美味く作れる人がいるんだと感激してしまうほど。 「どう?味は」 「すごく美味しいです。特にこの肉じゃがとか」 「そう?良かった。作ったものを客人に食べてもらったことがないから、ちょっと不安だったんだ」 そんなことを言いながら彼は照れたように笑った。 ……なんだ? なんか、この笑顔… 「…俺の顔、何か付いてる?」 「え…?」 「じっと見てるから…」 「いえ……なんでもないです」 気のせい、か…。 「雨、止みそうにないな」 雨の音がまだ聞こえていた。 「帰ってきた時はマシになってたから、洗濯物干せるかと思ってたけど…」 「……」 …………また、戻るのかな。 「いつも」に。 …いやだ。 あんな時間に戻されるなんて。 「…どうしたの?」 「…ッ、」 苦しい。 戻りたくない。 絶対戻りたくない。 視界が、ぐにゃりと歪む。 「おい、大丈夫か?!」 あんな場所、絶対に…。 「…目、覚めた?」 「……なんで」 目の前には、知って間もない顔。 天井が家のものと違う。 俺はベッドに寝かされていた。 「熱があったんだよ。それで倒れて……」 熱…。 「いきなり倒れたから、びっくりした」 「…本当にすみません。迷惑かけて」 何やってるんだ…本当に。 「…帰ります」 「え、待って…!」 身体を起こそうと手をついたが、上手く力が入らずまたベッドに倒れる。 「まだ下がってないんだから、寝てないと」 その時、よく見ると夕飯の時に着ていた服とは違うものを着ていることに気づいた。 「あ……悪いとは思ったんだけど、すごい汗だったから着替えさせたんだ…」 ああ…… じゃあ、見られたんだ。 傷と痣を。 沈黙が続いた。 …帰らなきゃ。 これ以上はダメだ。 戻りたくなくても、ここに長くはいられない…。 そう思ったのに。 「とりあえず、今は寝てなさい。もう夜遅いし」 「でも…」 「寝ないと、下がらないよ?」 「大丈夫。ここにいるから」 その言葉を聞いた瞬間、胸のあたりが温かくなった気がした。 その夜、彼は俺が眠るまで、側にいてくれた。 何も言わなかったけど、この人は俺が思っていることをほとんど分かっているようだった。 この日の俺は、熱で頭がぼーっとしていたけど、どこか安心したような気持ちで眠りについた。

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