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安らぎの場所 2
学校を出て、ある場所へ向かった。
インターフォンを押し、扉が開く。
目の前に、俺を出迎えてくれる人がいた。
「…おかえり」
「ただいま」
あれ以来、彼ー北見さんの家に行くようになった。
バイトの無い日は、一緒に夕飯を食べて帰る。
金曜日の夜は、泊まるという生活。
「今日はカレーにしようかと思ってるんだけど、いいかな?」
「うん。じゃあ俺、野菜切るね」
「お願い」
こうやって、二人で夕飯を作る。
名前を聞いたのは、熱で倒れた翌日だった。
「そういえば名前、言ってなかったな。俺は北見。北見 那央」
「え…」
最初、名前を聞いた時、どきりとした。
頭の中に、あいつの顔が浮かんだ。
「あの……どんな漢字で書くんですか?下の名前」
「那覇市の「那」に中央の「央」だよ」
…漢字は違うのか。
「君は?」
「…柊 奏斗です」
「奏斗くんか…よろしくね」
そう言ってこの人が向けた笑顔は、やっぱりなんだか懐かしかった。
「ごちそうさま」
「待って、カナ」
食事を終え、食器を持っていこうとすると、北見さんに呼び止められた。
「何?」
「傷、消毒するからソファーに座ってて」
「…ありがと」
北見さんは、俺が負った怪我の手当てをしてくれる。
あの日、俺の身体中にあった傷や痣を見て、放っておけないと思ったみたいだ。
学校でのことも、少しだけ話した。
世話になりたくないと思ってたけど、心は大分弱っていたらしい。
こうやって、唯一安心できる場所に入り浸っている。
「…はい、終わったよ」
「ありがとう」
「今日は、どうするの?」
今日は、金曜日。
北見さんは、いつも金曜日の夜、そう聞いてくる。
「…側にいて」
「分かった」
俺はそれに、いつものように答える。
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