99 / 111
約束
ナオは、自嘲気味にそう言った。
独りになればいい、なんて。
……やっぱり、俺はナオに嫌われてた…?
「………怖かった」
え…?
「……カナが他の奴らと楽しそうにしてるとイライラして、カナに触って欲しくなくて、俺だけのものにしたいって思ってる自分が怖かった。側にいると自分じゃなくなる気がして………あんなの、初めてだったから…怖くてしかたなかった……」
ナオの震えるような声。
今でも、そう思ってるように感じた。
「そんな自分を否定したかったんだ。だから、独りにした………離れられるし、お前が他の奴のものにならないって、安心した…。お前が俺だけを嫌ってるのも分かってた」
ナオはだんだん視線を下げていく。
「俺、おかしいんだよ。それすらカナが自分のものになったみたいに思えて……」
初めてナオのことを知ったような感覚だった。
俺が知っているナオは、ずっと太陽みたいな笑顔で隣にいてくれて。
もう一つ覚えているのは、俺を侮蔑の目で見る姿。
でも、こんなナオは見たことがない。
こんなに自分に怯えているところを見たことはなかった。
「間違ってるって気づいて、もう昔みたいに側にいれないって分かってるけど……カナのこと滅茶苦茶にしたのに、お前のこと……諦められない…。まだ好きで……一緒にいたいって思ってる……っ」
「……なんだよ、それ」
呟くと、ナオは目を閉じた。
まるで、殴るなり罵倒するなり好きにしてくれというように。
もし俺がその首に手をかけても抵抗しないだろう。
本当に……なんなんだよ。
触れるとひく、と震えた首。
そのまま俺は腕を回した。
「………本当に、滅茶苦茶だな…っ」
きっとナオは今、何が起こったか分からないような間抜けな顔をしてるんだろうな。
見えなくてもなんとなく分かる。
「ナオ……やっぱり俺、異常だよ…。だって、……確かに酷いって…怒ってもいるけど………それ以上に…嬉しいって思ってる……」
身勝手な理由。
怒りが全く無いわけではない。
けれど、俺を独占したいが故だったと知ると、それさえも嬉しく思えてくるなんてやっぱり俺は異常だ。
だからって、もうこんなことは二度とごめんだ。
「……もう、いなくならないで」
あんな惨めで悲しくて、孤独で、寂しい思いはしたくない。
「………俺でいいの…?独占欲強いし、離してやれない……逃げたいって言っても聞かないかもしれない。ほんとにいいの…?」
「いいよ…だからもう…独りにしな、で…ッ」
これは夢なのかもしれない。
俺の願望だらけの夢。
でも触れている所が温かくて、夢か現実か分からない。
背中に回された腕には、確かに力が込められた。
夢なら、覚めないで。
現実なら…
「もう離れない。独りにしない……っ」
約束して。
ともだちにシェアしよう!