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これから

あれから数日が過ぎた。 放課後になるとある場所へ向かう。 ノックをすると「はい」という返事が返ってきて、扉を開ける。 カナは俺を見ると、少し呆れたような顔をした。 「何、その顔」 「別に……よく毎日来るなあと思って」 そう言いながらも嫌がっていないのは、顔を見ればなんとなく分かる。 「いいじゃん、嫌だった?」 「…ううん」 目を逸らしながらもそう言ったカナは、本当に嬉しいんだろう。 笑ってる。 昔よりもいろんな顔を見れた気がして俺も嬉しい。 「調子、どう?」 「だいぶ良くなってきた。明日退院するんだ」 「そっか、良かった。じゃあ、学校は来週から?」 「うん」 あの日以来、俺は毎日カナの見舞いに行っている。 最初のうちはあんなこともあって、会話がぎこちなかったりしたけど、少しずつお互い普通に話せるようになった。 事故の時頭を打ったが、検査でも異常無し。 カナの両親はその日の夕方に病院に来たらしく、2人とも大泣きしながら無事でよかったと喜んだ。 その後もしばらくここにいたが、今朝また向こうに戻っていった。 「おばさん達帰ったんだな」 「やっと静かになった…。今朝もうるさくて」 「心配なんだから当たり前だろ」 「それは分かるけど、着替えまで手伝ってもらうのは恥ずかしいんだよ……」 特におばさんはカナにつきっきりで、食事や着替える時に「身体は動かせるんだから自分でやる」と言っても聞かなかったらしい。 北見さんとはあれから会っていない。 カナとお互いの気持ちを話して、散々泣いた後病室を出ると、扉のすぐ横に飲み物が二つ置いてあった。 もうそこにはあの人の姿はなくて。 ただ、カナとは電話で話したらしい。 「今日北見さんと話した。ありがとうって………さようならって、言ったんだ」 そう言ったカナは窓の外を見ていて表情は分からなかった。 「そうか……」 あの人からカナを奪ってしまったことに罪悪感を感じた。 カナは「こうなったことには、後悔してない」と言った。 それでも少し泣きそうな顔を見て、北見さんは本当にカナを大切に想っていて、それはカナも同じなんだと思った。 「ナオ…どうしたの?ボーッとして」 目覚めたばかりの時と比べれば落ち着いてきたけど、カナはまた俺が離れていくんじゃないかと不安になるようだった。 「いや、大丈夫」 俺が言うとホッと息をついたが、すぐに申し訳ないような表情に変わった。 「ごめん、俺……」 言いたいことは分かる。 「いいよ、…信じてもらえるまで待ってるから」 置かれている手に自分の手を重ねると、ゆっくり指と指が絡む。 繋いだ手は温かくて、この温もりを手放さないと誓った。

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