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疑心暗鬼と幸福

退院の日、ナオは迎えに来てくれた。 帰り道、何も話さず二人で並んで歩いただけだけど、なんだか落ち着いていた。 ナオは毎日見舞いに来てくれてずっと俺の側にいた。 空白を埋めるように。 それがたまらなく嬉しかった。 けど、俺はそれを心の底から感じることが出来なかった。 ふと不安になるんだ。 これが長い夢なんじゃないかって。 目が覚めると全部自分の夢で、実は何も変わってないんじゃないか。 だから眠るのが怖くなったけど、ナオが毎日来てくれたからだんだん眠れるようになった。 それでも俺の不安は残り続けた。 また離れたらどうしよう。 またあんな風になったら。 独りにしないって言ってくれたのに、信じきれない自分がいて。 今日も来てくれるかと気になって扉が開くのを待って、ナオの姿を見ると安堵する。 その繰り返しだった。 自分で言った通り、ナオは傍にいてくれる。 それを今でも疑っているのが嫌で、ナオに悪いと思ったけど、俺が信じるまで待つと言ってくれた。 「ありがとう、送ってくれて…」 「いや……あ…退院したばかりだけど大丈夫か?何か手伝うとか…」 「ううん、先生にも日常生活は送れるって言われたし大丈夫だよ」 「…でも何かあったら絶対言えよ?すぐ行くから」 なんか…… 「ふふっ」 「えっ、何?」 「なんか…ナオまで母さんみたいなこと言うんだなって」 「なっ……、ホントのこと言ってんだから仕方ねーじゃん…」 全く一緒のことを言われたから、なんだかおかしい。 「…本当にありがとう。もう大丈夫だから」 「………じゃあ、また連絡する」 「うん、分かった」 ナオの後ろ姿を見送って家に入る。 しんとしていて、一斉に音が消えた。 ……どうしよ、今から。 昼ご飯…は今あんまり食欲ないしな……。 掃除も入院中、母さんがやってくれたみたいだし…あと洗濯とか色々。 ちょっと寝ようかな…。 やることも特に無く、部屋に行きベッドに倒れる。 眠気があったわけではないのに、何故か俺の意識はすぐに底に沈んだ。 気がつくと、あたりは真っ暗になっていた。 もう陽が落ちた後だ。 結構寝たな……。 置いてあるスマホの電源を入れると19時半を指していた。 それと同時にあることに気づく。 着信が一件も来ていない。 気づいた途端、暗雲に覆われた。

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