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第19話
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昨日は、綺麗な満月だった。
こういう日、まだ一緒に住んでいた頃姉は外に出ようと誘ってくることがあった。夜空を見るのが昔から好きだったようだ。
しぶる自分を「夜空の知識はね、口説く時に使えるの!」とわけわからないことを言いながら庭に連れ出す姉はうすぼんやりとした都会の空で薄く光る星々を指差し、あれは何座、こっちは何座と教えてくれたりした。
(今日は満月か…)
いつものように夕飯を取りながら、ふとベランダから小さく満月が浮いているのが見えて、涼真はもう随分昔のように感じる姉の記憶が蘇った。。
「……夜空、見たい」
ベランダに出てもいい?提案したのは涼真からだった。姉ならばそういうだろうという判断の上での提案だったが、本当はたまには夜風にあたってみたかったのだ。
真尋はいいよと嬉しそうに微笑み、ベランダの鍵を開けて外に促した。
久しぶりに出る屋外は、予想外にひんやりとしていた。薄着だった涼真はぶるりと大きく身震いした。
と、同時にふわりと毛糸のブランケットが肩にかけられる。真尋が何処からか持ってきてかけてくれたのだ。
「あ…りがと…」
少し喉に力を込めて、小さな声でお礼を言う。姉ならば、きっとそうする。
「どういたしまして。……でも意外と寒いね。俺も中に入っていい?」
そう言って、真尋は片端を持ち上げ身体をぴとりと寄せた。大きめのブランケットなので二人で使っても十分に余裕はあって、余った部分は真尋がぐるりと前に持ってきて涼真を包むようにした。
「……鈴香の体はあったかいなぁ」
耳元で囁きながら髪に口づけする真尋は、とても幸せそうな表情をしていた。
「……星を見てる鈴香を見たとき、…えーっと、ほら高1の課外活動でプラネタリウム行ったときの、」
「……うん」
覚えている。
姉がその日の帰りに真尋の隣の席に座れたことを嬉しそうに話してくれた。
「そのとき鈴香がさ、本物はもっと綺麗だーって小さな声で怒ってて、でも楽しそうに見てる顔がさ、すごく可愛くて」
夜空を見上げながら当時を思い出す真尋は横から見ても本当に整った顔立ちで、涼真も少し心が騒つく。きっと姉もこの横顔を何度も見つめていたのだろう。
「その時…からかなぁ、好きになっていたのは……いやもっと前だったかな?自己紹介から可愛いなって思ってたし」
もし本当にここにいるのが姉だったとしたら、涼真はふとそう考えて、唐突に涙が出そうになった。今真尋の隣にいるのはその思い出も知らない自分だと言う事実が、たまらなくなってしまう。
(姉さん…)
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