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第20話

そう思った時、ブン…とバイクの音がベランダより遥か下から聞こえてきた。見ると白いバイクが電灯のあまりない道路を走っている。 警官だ。 逃げる、という言葉が脳内によぎった。涼真は通り過ぎていこうとするバイクの小さな赤い灯を凝視する。 ざっと10階以上はあるここから真尋を振り切って飛び降りるのには無理がある。 だが、声なら? 大声を出せば、もしかしたら聞こえるかもしれない。 涼真が口を開きかけた、その時だった。 「ねぇ、鈴香」 「ッ―― 」 言いようもない恐怖が、首筋につうと這った。 「あの星座……名前なんだっけ?」 いつのまにか背後から回ってきた指が、頤をそっと動かし涼真に空のある一点が見るように促す。ふわりと柑橘系の香りが体全体を包み込んだ。触れている身体の部分が熱い。 「前にも教えてくれたよね?……ねぇ、教えて」 バイクの音が遠くに行ってしまったのも、涼真は気づかなかった。 体のすべての感覚が、真尋に集中する。首元の真尋の指がつうっと動くとひくりと喉が鳴った。 隣にある真尋の顔を、涼真は見れなかった。ただ視界には真っ黒い空とまばらに光る小さな星だけ。 「…すーずーか、」 焦れたように指先は首の敏感なところを撫でた。 「ひっ…ごめ、ん…なさ…」 「なんで謝るの?」 ほら、アレだよ、と首筋にあった指は暗闇の一点を指差した。 「いつも教えてもらってたのに忘れるんだよね。……ねぇ、なんだっけ」 さっきまでとほとんど変わらない穏やかな声。 しかし、涼真はその声は急に鎖のように重くなっていく。一言一言が、体に絡みつくようだ。 「わ、かん…ない…。ごめ……」 「“わかんない”?」 ピクリと空を指す指先がぶれた。

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