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ずっと楽しみにしていたアキの料理をようやく食べることができた。牛肉のワイン煮込みとパスタが、あまりにおいしくて赤ワインを飲みすぎてしまった。
僕より背も高くて、色々知っていて、料理もできて、あんな目もできて・・・。
アキはなんだかずるい
困ったような顔をするアキがいいのに、あんな誰でも惚れちゃうような顔もできてさ。
映画館では得られない穏やかな時間が流れている。
久しぶりに僕は気持ちが優しくなった。
細くて長い指。
薄いけど綺麗な唇
僕はいったい何を考えているんだ!
だから赤ワインはいけないんだよ。白より回るんだ。
アキの困った顔がどうしても見たくなって、僕はアキに言ってみた。
「僕思うんだけどさ、アキはトニ一・レオンに似ているよ」
「似てるって言われたことないって。・・・さてはお前酔っ払っただろう」
軽くかわされた!困ってない。僕はさらに食い下がる。
「顔かたちじゃないんだよね。寂しそう、憂い?
困ったようなのに強い目線とか、よくアキがするんだ、そんな顔」
今度はちょっと困った顔。僕は満足した。これがいつものアキなんだ。
「じゃあ、和泉は「さよなら子供たち」の秘密をもっていたほうの少年に似ているよ」
「ん?フランス映画だったっけ?それ見てないな」
「黒い瞳なんだけど白い肌の本当に綺麗な子でね、目を奪われたよ。ものすごく印象に残る」
僕は人形みたいだとか、女の子みたいだとか、そういう言われ方ばかりしてきた。
だからこんな風に綺麗だといってもらって、なんだかすごく嬉しかった。本当は女性に言うのかもしれないけれど、アキから綺麗だといわれて、認められたような気がした。
アキはたまに、さらりと直球を投げてくる。
やっぱりアキだ。僕はさらに安心した。
「とにかく見終わったとき、表面は静かなのに水中は渦巻きで大荒れ、そんな気持ちになった。心は号泣しているのに、目からは静かに涙がポロっとでるくらいで・・・心をゆすぶられたよ。
エンドロ一ルが終わって場内が明るくなったとき、通路を挟んで隣に座っていたス一ツを着た男性が、まっすぐ前をみて俺と同じように静かに泣いてた。そういう心を波立たせる映画に出会えてよかったって思っているよ。」
「その人も、自分と同じように静かに泣いているアキを見て、言葉を交わさなくても共感しただろうね。」
「どうなのかな・・・。ともかくその子供が和泉に似てるよ。あの映画館で週代わり2本立ての企画があって、その時にみたんだ。けっこう昔の映画だと思う。DVDリリ一スされているかな。探して今度見てみろよ」
「そうだね・・・」
その様子は容易に想像できた。エンドロ一ルが終わって館内の灯りが戻る。その中に静かに涙を流しているアキと知らない男性。
言葉を交わさなくても共感しただろう。
そして僕はもうひとつ気がついてしまった。
きっとその男性は「いい映画だったね」とか何とか赤い目をしてアキに話しかけたに違いない。
暗い階段を昇ってくるアキに、僕が思わず声をかけてしまったように・・・。
想像は確信に変った。
アキが何かを思い出すように、遠くをみていたから。
きっとアキはその人と寝たんだ、絶対そうだ。
理由はわからないけど、そう確信する。
なんだか邪魔しちゃいけないような、居心地の悪さを感じて、僕は寝たふりをした。
アキは隣の部屋からタオルケットを持ってきて僕にかけてくれた。なんだかそのやさしさに涙が出そうになる。何故だかわからない。
薄く目をあけると、アキは僕から離れて壁にもたれ、何かに想いを馳せている。
僕のしらないアキが、またひとつ・・・。
タオルケットが暖かくて、僕は本当に寝てしまった。
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