34 / 34
16
昼間がむしゃらに働く・・・よけいなことが入り込まないように。
仕事でミスはしたくなかった。これで仕事にまで自信がなくなったら、精神的に潰れてしまいそうだったから。
綾からのメ一ルには返事はするけど、自分からはしていない。電話も3回に1回くらいしかでない。会っても僕の心は晴れなかった。それどころか自己嫌悪に陥るだけだった。
キスをしても、想像したアキの唇が浮かぶ。触れられても、この指がアキだったら?と考えている自分に気付いてしまう。
僕は綾を抱くことができなくなっていた。
「和泉、ちょっといいか。」
課長に呼ばれた。
「第2会議室にいっててくれ、電話一本入れたら俺もいくから。」
言われたとおり会議室で課長を待っていた。なんだろう、あらたまって。デスクでは話せないことなんだろうか?最近僕が暗いから?
ぶつぶつ考えていたら課長がきた。
「待たせたな。お前最近熱心に働いてるな。あんまり残業すると彼女に愛想つかされるぞ。」
「でしょうね。」
かろうじて口の端だけで笑顔らしきものを浮かべる。本当に愛想をつかされるだろうな、このままだと。
「なんだ、その顔は。まあ、いい。話というのはな、今度東京にできる新しい部署の話はお前も聞いているだろう?」
「ええ、一つのテストケ一スをつくって各支店におろしていく・・・でしたっけ?」
「うちの会社も印刷屋さんというものから色々変って行かないと、これから勝ち抜いていけない。現状制作部門を持っているが、レベルははっきりいって低い。クライアントの大部分はプロダクションや代理店にデザインをまかせて印刷だけうちにまわす方法をとっているだろう。これからどんどんソフト面の提案ができる方向性にしていきたいらしい。
一つ部署を立ち上げてノウハウを作ったうえで支店に落す。たぶん3年くらいかかるだろう。
うちからはお前にいってほしい。」
「え、僕がですか?」
「仕事も覚え始めたし、お前は仕事に前向きだ。怠け根性がない。あとあのうるさ型で何でもありの「A・Y」をずっと担当してきて、ちゃんと対応しているだろ。」
「いや、まあ、A・Yさんは特別ですから・・・」
盆休みの前の出来事を思い出した。突発的なオ一ダ一は相変わらずだし、納期が早まったり、ふりまわされている。
「赴任は4月からだ、まもなく2月も終わろうとしているから急な話だが。上司の俺としてはお前に是非いってもらいたい。俺個人としても、お前の年齢で経験を積ませてやりたいという思いがある。」
「なんですかそれ。」
課長の言い方がおかしくて久しぶりに笑顔が浮かんだ。どっちにしても行けってことなんだから。
「かわいい子には旅をさせろっていうだろ。期待の部下だからな、お前は。」
どうしたらいいだろう。東京か・・・
アキ、僕はどうしたらいいかな・・・
ともだちにシェアしよう!