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着替えて丸くなり所在なく座る和泉をどう扱っていいのか途方にくれていた。 沙希が言う不毛な時間はいいかげんに辞めろといった言葉を思い出すが、目の前の和泉を見ていると、疲労感が募る。 今も尚、俺を一喜一憂させる存在を疎ましいと思った。 顔を歪めるほど俺が嫌なら、早く言ってくれたほうがマシだ。 それとも男の俺がお前を好きだった、ずっと好きだったと言って、もっと嫌悪させてやろうか? どす黒いものが噴出そうとしたとき 「あき、僕はね、疲れちゃったんだ」 和泉が目を閉じて俺に言った・・・。 疲れているのは俺なんだ!と怒鳴りたかったが、飲み込む。 ずっと疑問に思っていたことを聞く。 「和泉、なんで何も言わずいなくなった。なんで連絡を途絶えさせた。」 「あき、それはね、苦しかったんだ。どうしようもできなくて俺は逃げ出した。 そしたら楽になれるって思ったんだよ。」 やはりあの日聞いてやるべきだった、いや聞べきだった。 「俺はあの日、お前の手を離したことをずっと後悔してきた。 どうした?ときいてやれなかったのかと、ずっと今だに後悔している。」 「あきがあの日聞いてくれたら変ったかな、いや変わらなかったと思う。僕が一番どうしていいかわかっていなかったからね。僕には時間が必要だったんだ。 答えはすぐにでたけれど、それを認めて飲みコムにも時間がかかった、そしてそれを無かったことにしようとするのにさらに時間がかかった・・・。 そして無かったことにするにはここままじゃいけないと気がつくまでに、また時間が必要だった。」 お前は何を言っている? お前は何を苦しんでいる? 「あきは覚えているかな?トニ一レオンに似ていると僕がいったときだよ。」 「覚えてる。「さよなら子供たち」の話を俺がした。」 「その時、涙を流すサラリ一マンの話をしてくれたよね。僕が綺麗なフランス人に似ているっていうから嬉しかったんだ。でもそのあと悲しくなった。 アキはそのサラリ一マンと寝たんだろうって、何故かわかってしまったからだよ。」 「でも、俺はそんな・・・」 「アキはそういわなかった、でもわかったんだ・・・僕はとっさに寝たふりをした。 アキはタオルケットをかけてくれたあと壁にもたれて何かを思い出していた。 それでね、あ、サラリ一マンのことを思い出しているんだって、気がついてしまったんだよ。」 「起きてたのか・・・」 「僕、悲しかったんだ。どうしてなのかわからなかった。たぶんこの時がはじめて自分の心がざわめいた時なんだと思う。そしてその後、お店で偶然鉢合わせしたよね。」 忘れるはずがない・・・。思い出すだけで、胸のあたりにキリっとした痛みを感じる。 「お前は彼女と一緒だったな、彼女の顔はろくにおぼえていないが。」 本当に顔がまったく思い出せない。自分にあきれて荒んだ笑みになる。 「あの日から僕はおかしくなったんだよ。」 歪んだ笑みを浮かべながら和泉は床を見つめて言葉を続けた。

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