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小さな恋のメロディ #2 side W (Wakana Ito)
冬葉が小学三年生、夏休み明けぐらいのお話です。
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『お友だちをたくさんつくりましょう』
『色々なお友だちとお話しましょう。』
これは、つうしんぼにいつも書いてある言葉。一年生から三年生になった今でもずっと。新きろくこうしん中!分かってるよ。友だちもいたらいいなって思うし、別にだれとも話したくないわけじゃない。ただね、何を話したらいいのか分からないだけ。することがないから、每日、図書室へ行くの。別に本がすきなわけでもないし、特別な場所ってわけでもない。一人でいても何も言われないから楽チンなだけ。少しだけどすきな本もあるし、読んでよかったなって思った本もある。図書室へ行くのはムダじゃないね。今日はどんな本にしようかな。できたら長くて、気がついたら時間がたっていたっていう本がいいな。おもしろい方がいいけど、おもしろくなくてもいいや。時間がつぶせればいいんだから。
「今日はどんなの本読んでるの?」
急に話しかけられてビックリ!
誰?あっ、里中君···
里中冬葉くん。同じクラスの男子。里中くんは人気があって、まわりにはいつも人がいっぱいいて、ちょっとニガテなタイプの子。
「今日はどんな本読んでるの?わかなちゃん?」
「えっ?」
急に名前呼ばれておどろいた!だって、里中くんとは一度も話したことないんだよ。
「えっ、ああ······こっ、コレ?」
表紙を見せると里中くんは
「これおもしろいよね?ぼく、この本、大すき!」
「もう読んだの?」
「うん!しんちゃん···お兄ちゃんが少し前にくれたんだ。」
「へぇ〜おもしろい?この本。」
里中くんは不思議そうにわたしを見たの。
あれ?わたしヘンなこと言ったかな?何か言わなくちゃ···
「えーっと···さっき読みはじめたばかりなんだ。だから···」
「それならいいんだけど···『おもしろい』かそうじゃないかは自分で決めなくちゃ!」
「えっ?」
「その本を読んでるのはわかなちゃんでしょう?だったら、おもしろいかそうじゃないかを決めるのは、わかなちゃんだよ。ぼくが読んでおもしろくても、わかなちゃんもいっしょだとは限らないでしょう?でもね、わかなちゃんはその本、きっとすきだと思うよ。」
「どうして?」
「わかなちゃん、おもしろいなって思ってるときはニコニコしてるけど、そうじゃないときは、ここをいつも痛そうにしてる。ぼくね、それを見ていたらどんな本でニコニコして、どんな本でここを痛そうにするのか、大体分かるようになったんだ♪」
里中くんはまゆげとまゆげの間をさして、痛そうな顔をした。
「いやだ!本当に?」
「うん。いつも図書室でみかけるからね。」
「ええっ!見られてたの?それは···なんか···ちょっとはずかしい···」
「うふふふ。でも、ぼくは、すてきなことだと思うけど。だって、わかなちゃんもぼくも、ここですきなものをさがす旅をしているんだから。」
「すきなものさがしの旅?」
「うん。ぼくたちは船長になって、本の海をぼうけんしながら、すきなものという宝ものをさがしてる。ニコニコしているってことは、宝ものを見つけたってことでしょう?すてきなことだよ。」
チクリ···心が痛い。里中くんは宝石のようなキラキラした言葉をわたしに言ってくれるけど、わたしがここで本を読む理由は、そんなにすてきなものじゃない。
「ありがとう。でもね、里中くんにそう言ってもらえるほど、すてきなものではないんだ。わたしが本を読む理由も、每日ここにいる理由も。」
はずかしかったけど···全部話しちゃった。ここにいる理由も本を読む理由も。ついでに毎回書かれるつうしんぼの話まで。里中くんはわたしの話を『うん、うん』って、最後までだまって聞いてくれたの。たったそれだけのことなのに、せなかに羽がはえたみたいにふわふわして、心がぽかぽかして、何だかとてもうれしくなったの。
里中くんがお友だちだったら···
きっと每日楽しそう。
だから、里中くんのまわりには···
人がいっぱいいるんだね···
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