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三人三様 #2 side S

ひとしきり暴れた…いや、冬真を守った冬葉は電池切れ。突然ぱたりと眠りに落ちた。 「あっ!こら!冬葉!こんなところで寝たら風邪引くぞ!」 床にうつ伏せで眠る冬葉を、葉祐は揺り起こそうとした。しかし、一度眠りに落ちた冬葉はかなり手強い。これは家族の共有事項。 「こうなったらもう無理だね。僕、布団敷いて来ようか?」 ソファーから立ち上がろうとした僕を制し、葉祐は言う。 「あーいいよ。俺がやる。お前は冬真を見てやって。ちょっと汗ばんでるみたいだから。水分補給もよろしく。」 冬葉を抱えてリビングを出て行く葉祐を見送り、改めて冬真を見てみると、確かに額がうっすらと汗ばんでいた。あの位置からよくも分かったものだと感心した。持っていたハンカチで汗を抑えると、冬真はクスクスと笑い出した。 「えっ?何?」 「ごめん…いや…三人三様だなって。」 「何が?」 「寄り添い方…かな。」 「寄り添い方?」 「うん。冬葉は今、僕のために見えない敵と闘ってくれたでしょう?でも、君があれぐらいの時…僕の枕元にいつもこっそりテディベアを置いてくれた…」 「ああ…そうだったね。懐かしいな。」 「嬉しかったなぁ…テディがいてくれて…」 「ええっ?そうなの?翌朝、きっちり僕の枕元に戻されてるから…てっきり…迷惑だったのかなって…それでも懲りずに置いちゃったけど…」 「迷惑だなんて…取っちゃうワケにはいかないでしょう?子供の宝物だもの。でもね、目が覚めて…君のテディが目に映ると…心の底から安心した。こっそりテディを抱きしめてから、君にお返ししたんだよ。面白いね…僕を気遣ってくれるのは同じなのに…君と冬葉の寄り添い方は全く違う。葉祐は君と似てるけど、ちょっと違ったな。葉祐は…そう…漫画だった。随分昔の話だけど。もう…何十年も前の話。」 冬真は少し恥ずかしそうに苦笑いをして話を終わらせようとした。 「その話…知らない。もっと聞かせて。」 ほんの少しだけ沈黙があって、冬真はまた口を開いた。 「知り合った翌日にね…漫画を貸してくれたの。オススメの漫画を3冊。でもね…何故か1、3、4巻。2巻だけなくて…」 「はぁ?何それ?致命的じゃない?おっちょこちょいにも程があるでしょ?まさか…お父さんの気を引くためにわざと?」 「まさか。でもね…その2巻だけない漫画の背表紙を見るのが好きだったな…葉祐がそばにいてくれるみたいで。」 「まるで…エンターティナーとその影に隠れた引っ込み思案に、それから…究極のおっちょこちょい。」 「何?」 「我が家の姫を守る三銃士。一言で例えるなら…的な?」 「違うよ…」 「そう?」 「うん、持っている質や才能を活かす方法が違うだけで…君は冬葉の影に隠れているワケじゃない。単に冬葉のやり方が目立つだけ。それに…引っ込み思案じゃなくて…思慮深いが正しいかな…君はそういう人だと思う…」 驚いた。饒舌な冬真はもちろんのこと、最も驚いたのは、冬真が僕をそんな風に見ていたこと。 「あっ…ありがとう…何か…ちょっと嬉しい。褒めてもらって…」 「そう?それは良かった…でもね、君だけじゃないよ。僕にとっては素敵な三銃士。いつでもどんな時でも、かわいい三銃士。宝物なの。」 不意に左肩が重くなった。視線を落とすと冬真が頭を乗せていた。 「眠い?疲れた?」 「ううん…幸せを噛み締めているのです。」 「へんなの。」 「うふふふ…」 それから程なく聞こえて来たのは小さな鼻歌。楽しそうな冬真に僕は嬉しくなって、彼の手を握った。冬真もそれに応えるように握り返す。その手は相変わらず冷たくて、弱々しくて、ちょっぴり寂しくなった。鼻の奥にツンと痛みが走る。そんな僕をよそに、冬真はずっと鼻歌を歌っている。 あれ…これ聴いたことあるな。ああ、そうだ!原曲よりかなりゆっくりなテンポだけど、これはいつだったか、好きな一曲だと教えてくれたバイオリンの曲だね。タイトルは何だったっけ?前にも聞いたんだけどな… 曲のタイトルは忘れちゃったけど、僕、知ってるよ。冬真が僕の誕生を心から望んでくれたこと。そして、僕が生まれて…嬉しすぎて皆がドン引きするぐらい大泣きしたんだよね?きれいな顔がびっくりするぐらい腫れ上がって…皆がオロオロして大変だったんだよね?でも、冬真はそんなことお構いなしに、僕を見る度、嬉しくて大泣き繰り返したんでしょう?周りのオロオロ具合が目に浮かぶなぁ。それを収束させたのは、きっと俊介さんだろうな。 冬真の鼻歌はまだまだ続く。本当に楽しそう。 僕が生まれた日も、小さな僕を抱きしめながらも、こうして…この曲を歌ったのかなぁ…

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