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第10話
なんか、ちょっと上手くいきすぎか?
要とキスをしながら、大成はそんな事を考えていた。
唇と唇が離れて、きょとんとしている要の瞳を見つめながら、
「なぁ……嫌なら嫌って言っていいんだぞ?」
唇をそっと指でなぞる。
「うーん、分からない」
おいおい。そんな事を言われると、なんだか性の知識もない子供にみだらな行為をする悪者みたいじゃないか。
「でも、気持ち悪いとか、そういうのも無いですよ」
そしてまた、要は大成の胸元に顔を埋める。床に手を付いてその身体を支えるが、バランスを崩してふたりで転がった。
「うわっ、痛って……」
頭を打って顔を顰める大成に、要はくすくすと笑う。床に寝転んで、じゃれ合う二匹の猫みたいだな。
でもまぁ、やるならしっかりやりたいし。
「要はいつもどこで寝てるんだ? まさか、布団も無いわけじゃないだろ」
ゆっくりと起き上がりながら、そんな言葉を大成が投げると。要も無言で起き上がり、大成の手を引いて、奥の部屋へと向かった。
ドアを開けると、そこはやはりシングルベッドがひとつ置いてあるだけの部屋だったが。これだけあれば十分だ。
「座っていいか?」
その問いに要が頷いたので、大成はベッドに腰掛けた。
「あのさ、俺は、俺を恋人と思ってない奴とはセックスしたくないんだけど」
そんな問いを口にしながら要の表情を見ることは出来ず。大成は両手を後ろにつき、視線を天井に向けながら喋る。
「俺は要を好きだけど。要も俺を好き……いや、要は俺を、どんな風に見てるんだよ?」
好きなのか、なんて問うと、ただ素直に「はい」と頷かれるだけになりそうで。質問の内容を曖昧に変えた。
「すいません。よく分からないんです」
またそんな言葉を返されたが。要の口調は真剣で、そしてどこか寂し気だ。
「セックスしたくなる位にひとを好きになる、っていうのが、俺はよく分からない」
隣に座った要の横顔に、大成は視線を移す。やはり寂しそうな表情をしている。
「真が親に『俺は男の人を凄く好きだ』って言ったとき、母親が真に『そんな事ありえない』って怒鳴って。でも、『真じゃなくて俺が男が好き』って言ったら、結構あっさり認めたから。どっちが正しいんだろう? なんて思って」
はっきり自身の心を告げる真や、その真と要との接し方をあからさまに変える母親の言動に振り回されているのか。幼い頃から家族内がそんな感じだったら、訳が分からなくなるのだろうな。
「じゃあ、ちゃんと分かるようになるまで恋愛は止めておくか? それでも俺は要を好きだけどさ、音楽仲間として付き合うのだけでも楽しいし」
「じゃあ、なんでいきなりキスしたんですか?」
要の鋭い問い掛けに、大成は一瞬、ぐっ、と言葉に詰まったが。
「それは……勢いというか……やっぱ、好きな奴にはそういう事したいし……」
困惑しつつも答える。
「俺も大成さんと一緒に居ると楽しいし、色々話せるし、これからも大成さんと一緒に居たいです」
そして要は、ばさり、と突然Tシャツを脱いだ。そしてジーンズのベルトも外し始める。
「これって恋愛じゃないのかな? 俺もずっと分かんないままは嫌だし。教えてください、大成さん。俺が大成さんに恋愛してるのか」
下着も脱ぎ始めた要に、大成は戸惑った。他人に教えられるほど立派な恋愛観を持ってる大人でもないし。
でも、これからふたりで勉強するような感じで良いか。また要の言葉に甘えることにして、大成も自身のシャツのボタンを外し始めた。
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