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第175話 誘われる者 -5-
「…………あの……。続きの為に、またここに来てくれませんか?」
駄目元でザリはセランフィスにお願いをしてみた。
目の前の神々しい不思議な男が……"気まぐれを起こしてくれないだろうか……"、そんな淡い気持ちがザリの中でユラリと何かが揺らめいた。
「……ああ、良いぞ。ただ、"いつ"とは約束出来ないが……」
下界に来るにしても、何かしら繋がりがあった方が楽しそうだとセランフィスは感じた。
それにザリは実際に絵が上手く、完成した物を見たくなったのだ。
そして、ザリは内心、本当に起こった"気まぐれ"に驚きながら喜びが溢れそうになった。
「……では、私がしばらく来なくても、私を捜してはいけないよ、ザリ。約束できるかな?」
「……? 分かりました……」
「……そして私からお前に触れる以外、接触は許可しない。『ザリは私に素手で触れない』、と誓うならお前の絵のモデルに特別に成っても良いよ」
「素手で触れてはいけない……?」
「そうだ。……時間が経てば、大丈夫になるかもしれないが……」
「……? ……良く分からないけど、分かりました。ポーズの細かい指示とか、必要な時は口頭でします」
そして、かなり上から目線な彼の様子にザリは違和感を覚えながらも、何故か口にしようとは思わなかった。
ここでも、変に受け入れている自分をザリは感じた。
それはただ"神の力"が働いているだけなのだが、そんなのザリは知る由もない。
「……それはお互いの為に仕方ない事なのだ。ただ、お前に私から"加護"を与えてやろう」
「"加護"?」
「……ああ、……そうだなぁ………………お前が幸せになるお呪いみたいなものか……?」
セランフィスはカーティティスがアサヒに施している事を、何となくしてみたくなったのだ。
カーティティスは行く行くは天界にアサヒを……と思い、そうしているのに対して、セランフィスの物は気まぐれに過ぎなかった。
ただ、この絵描きの青年ザリが気に入った、理由など……薄いこれだけの感情だ。
「どうする?」
聞かれた言葉の色の中に、「残酷だ」とザリは何故か感じた。
選択肢が有るようで無い……。セランフィスの"魅力"がザリの判断を一つ一つ……奪う。即行で奪っていく。
「……そうします。貴方に……モデルを、お願い……します……」
「よし、では……加護を与えよう、ザリ。日々に"祝福"を……」
そう言うと、セランフィスはザリの前髪を上げ、その額に唇を寄せて祝福の加護を与えた。
確か、カーティティスはアサヒにこうした加護のやり方をしていた。
―ちゅ……
そして……ザリは堕ちてしまったのである。
セランフィスに寄せられた唇が手の様にザリを押し、たたらを踏む間も無く何かの"際"から彼を…………歓喜と悲嘆が渦巻くそこへ堕とした。
ザリは恋に…………神に、堕ちた。
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