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第174話 誘われる者 -4-

「―……お前は絵が上手いな」 「有難う御座います。一応、それでメシを食べているもんで……」 ザリの部屋に着き、風呂や着替えを済ませてから、セランフィスはザリの作品を見て、素直な感想を贈った。 風呂、と言っても実は風呂場で手をかざして終わりにしただけだ。神にはこれで良いのだ。 そして着替えはセランフィスが風呂に行っている内に、ザリが夜間もセルフで出来る高速魔法のクリーニングをしてきたのだ。 このリーフィールムは漁へ早朝……真夜中から働く男達が多い為、洗濯技術が発達しており、こういう事も可能なのだ。 神の衣だと知らずにザリは普通に高速魔法のクリーニングをし、戻って来て、それをそのままセランフィスに返した。 見た目、ゆったりとしたシンプルなズボンと上着はデザイン的にも不思議に思う事無く、ザリは何も疑問に思わずいた。 そして自分の目の前でちょいちょいと衣服を正すセランフィスを見て……、 「……あの……。何枚かスケッチさせて下さい……」 ……思わずザリはこんなお願いをしてしまった。 とても神々しい者を目の前にして、静かな興奮と、制作意欲が無意識に掻き立てられた結果だった。 「スケッチ? ふぅむ……? ………………言いだろう。許可する」 言われたセランフィスはザリの作品群を一瞥して、スケッチを許可した。 ザリの作品は人物が多く、それは男女両方でとても"息吹"が感じられるものだったのだ。 作品に……モデルに愛情が注がれていると分かる、それ。 この"生きる"作品の枚数は、目の前の恋多き芸術家の失恋数と同等なのかもしれない……。 指定された長椅子にゆったりとした感じで座り、手を前で組んでセランフィスは瞳を閉じてザリの好きな様に描かせた。 紙の擦れ音、木炭の音、後の音は…………無い。 …………ゆっくりと……しかし、確実に早く流れる時間は誰にも平等だ。 セランフィスはとある気配を感じ、瞳を閉じたままザリに声を掛けた。 「……出来たか?」 「いえ……まだ……」 「そうか。……残念だが、連れがそろそろ帰ろうとしている」 「?」 ザリはセランフィスの"連れ"の意味は少し分からないが、どうやらこの時間が終わってしまったのは分かった。

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