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第173話 誘われる者 -3-

「………………"特別"がそんなに欲しいのか?」 「……欲しい」 ……どんな状況になっても、欲してしまう……。だから、"特別"なのだろうか……? 「…………私も、"特別"を探しているんだ」 青年の少し拗ねた様な返答に、セランフィスは心の内をそのまま呟いた。 「でも、私は……初めて、"特別"を探しているんだ」 「え」 妙な"間"が二人の間に落ちる。 「―……私も"特別"が欲しい」 「…………」 自分を真っ直ぐみて喋るセランフィスの言葉と声、そしてそこに込められた思いに、青年は自分を求められている様な錯覚に飲み込まれそうになった。 「どうしたら、良いのかな?」 「……………………分かりません」 本当に分からない。 分からないのは、答えられない……。 再び彼等の間に、妙な間が……となる前に、青年が喋り出した。 「……服、俺の為に……。すみません」 「いや、気にするな」 「あの、せめて俺の部屋で乾かしていきませんか?それと、お茶でも……」 「こんなの、すぐ乾く」 言葉を直ぐに重ねてきたセランフィスに、青年は「えっと……」とセランフィスのずぶ濡れの服を見た。 「これが直ぐに乾くとは思えない……」そんな視線で彼はセランフィスを見ていたのだ。 そこでセランフィスは、せっかく下界に来たのだと思い直し、この青年の世話になる事にした。 本当は少し手をかざすだけで済む事を、最高神は人の子に任せる事に決めたのだ。 「……やはり、服を乾かすのをお願いしようか」 「は、はい! どうぞ、こちらです……」 言われて彼の借りている部屋へと向かいながら、セランフィスは疑問に思った事を口にした。 「……そうだ。さっき言っていた"題材"とは、なんだ?」 「それは……絵の……」 「題材とは、絵の題材という事か」 「はい」 「……お前の絵が見たくなった」 「! ……では、部屋に……! 幾枚かありますので……」 "ぱっ"と表情を笑顔に素早く変えて、青年はセランフィスに言ってきた。 そうやら彼は、自分の作品が見られるのが好きな様だ。 「……そう言えば、名前をまだ名乗っていなかったな。私は………………"セラ"と呼べ」 「セラ……様。俺は"ザリ"と言います。では、参りましょう」 自己紹介を交わし、セランフィスとザリは歩き出した。

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