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第9話

「ただいま……」 途中で降り出した雨に雨宿りする気もなく、かと言って行きたい場所もなく。気づけば家まで着いていた。 「あらま〜。千紘、びしょびしょじゃない」 「うん。シャワー浴びてくる」 「そうね。そうね。それがいいわ」 何をやってるんだろう。男に回されて、援交相手を呼び出して、なにか残るどころか、失ってすらいない。 男に蹂躙される度思い出す、康介の顔と体温。康介の声。どうして誰も壊してはくれないのか。奪ってはくれないのか。 「……っ……康介……」 頭から水を浴びても、消えるのは自分の体温ばかりで、康介の温もりが消えない。 「さむ……」 一度味わってしまった禁断の果実を、願わくばもう一度。 「うわっ……」 「こう、すけ……?」 バスルームから出ると、脱衣場にタオルを持った康介が立っている。 「おばさんに、持っていくように頼まれて」 「どうも」 小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。だから、隠すとこなどない。 「千紘。そのアザ、なんだ?」 「ああ。今日、大人数相手にしたから、その時にでも付いたんだろ?」 康介に言われて、体をよく見れば、胸や腕に幾つものアザができてる。 「大人数って……。まさか、まだ、続けてるわけじゃないよな?」 「なんだよ、その言い方。俺が誰と何しようが俺の勝手だろ?つうかさ。お前の一言で俺が辞めるとでも思った?自惚れんなよ」 「っ……!」 己の言葉で相手を動かせるなんで、思い上がりもいいところだ。 「お前がなんて言おうと、俺は辞める気はない。……それとも、お前が相手してくれる?俺にフェラ、気持ちよかっただろ?」 「ふざ、けんな……」 肩を震わせていた、康介の顔が怒りでカッと赤くなる。 「気が向いたらいつでもどうぞ。安くしといてやるよ」 康介の肩を軽く叩き、タオルを腰に巻きバスルームを出る。 「ちょっと、お兄ちゃん。そんな格好でうろうろしないでよね!」 飲み物を取りに来たのだろう。手にはアイスティーがふたつ乗ったお盆。ヤる事ヤってるクソ女が純情ぶりやがって。 「ねぇ。康くんは?」 「知るかよ」 どうして、自分の手には何もないのだろう。

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