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第8話

「家に帰りたくないって言うから、あっちのお誘いかと思ったのに、こんなとこ呼び出して。どうかしたの?」 「別に……」 無くなりかけたウーロン茶をズルズルとストローで吸う自分の目の前に、ドリンクバーからアイスコーヒーを持ってきた男が席座る。 結局、行き着く先がここなのが腹立たしい。 「まぁ、したくないならそれでもいいんだけど……」 目の前では、男が持ってきたミルクポーションが注ぎ込まれていく。 いくらなんでも、三つは入れすぎだ。 「ねぇ。今、夏休みでしょ?旅行の事、考えてくれた?」 カラカラと音を立てて撹拌されるアイスコーヒー。 「行かねぇって言ってんだろ?」 「ええー?本当にここ、穴場でおすすめなんだよ?」 男が勧めてきたのは老舗の旅館。しかも、離にある内風呂付き。 「ご飯も美味しいんだよ?」 自分になんの価値があると言うんだろう。どうして、この男はそこまでするのだろう。 「浴衣姿のチヒロくん、見たいなぁ。似合うんだろうなぁ……温泉で赤くなった肌とか、浴衣って便利だよね……」 臆面もなく、プレイの話をする男に嫌気がさす。 「……ヤらないんなら、行ってもいいけどな」 呼び出すんじゃなかった。 「ちょっと、チヒロくん、ご飯は……?」 セックス以外に利用価値のない自分に反吐が出る。 他の男も所詮は一緒だ。 先ほどまで晴れていた空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうだった。

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