8 / 9
第8話
「家に帰りたくないって言うから、あっちのお誘いかと思ったのに、こんなとこ呼び出して。どうかしたの?」
「別に……」
無くなりかけたウーロン茶をズルズルとストローで吸う自分の目の前に、ドリンクバーからアイスコーヒーを持ってきた男が席座る。
結局、行き着く先がここなのが腹立たしい。
「まぁ、したくないならそれでもいいんだけど……」
目の前では、男が持ってきたミルクポーションが注ぎ込まれていく。
いくらなんでも、三つは入れすぎだ。
「ねぇ。今、夏休みでしょ?旅行の事、考えてくれた?」
カラカラと音を立てて撹拌されるアイスコーヒー。
「行かねぇって言ってんだろ?」
「ええー?本当にここ、穴場でおすすめなんだよ?」
男が勧めてきたのは老舗の旅館。しかも、離にある内風呂付き。
「ご飯も美味しいんだよ?」
自分になんの価値があると言うんだろう。どうして、この男はそこまでするのだろう。
「浴衣姿のチヒロくん、見たいなぁ。似合うんだろうなぁ……温泉で赤くなった肌とか、浴衣って便利だよね……」
臆面もなく、プレイの話をする男に嫌気がさす。
「……ヤらないんなら、行ってもいいけどな」
呼び出すんじゃなかった。
「ちょっと、チヒロくん、ご飯は……?」
セックス以外に利用価値のない自分に反吐が出る。
他の男も所詮は一緒だ。
先ほどまで晴れていた空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうだった。
ともだちにシェアしよう!