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第7話(蒼衣side)

なんか気持ちいい。 もっと頭、撫でてほしいのに。 手が離れてく。 前髪をすく、優しい手。 頬に添えられた手に自分の唇を押し当てる。 瞼に唇の柔らかな感触がした。もう片方の瞼にも。おでこにもキスが降ってきた。 今度は唇に柔らかさを感じる。 気持ちいい。 離れちゃう。 やだ。 もっとして。 軽く口を開けて舌で唇をつつくとびくっと震えた。一瞬間があいた後、戸惑うように厚ぼったい舌がぬるりと入ってくる。自分の舌で追いかける。なんだこれ。気持ちいい。 あれ?なんだっけ。 俺寝てたんだっけ? 夢見てんのかな。 ふいに首筋に口づけられる。ぞくりと身体が小さく震えた。耳に吐息がかかる。 「蒼衣…。」 一瞬全ての思考が停止した。 耳によく馴染んでいる聞き覚えのある声を聞いて、 勢いよく飛び起きた。 「…って〜」 ゴンッという鈍い音と共に、紺が顔を押さえてベッドから起き上がる。 「お前、急に起き上がんなよな〜。」 ベッドに腰掛けたまま、少し赤くなっているおでこをさすっている。 「だって、お前がちゅ、ちゅーとかするからだろ!」 「泣いてるだろうなって来てみたら、お前気持ち良さそうに寝てんだもん。拍子抜けして頭撫でてただけだったんだけど、なんか見てたらあんまり可愛い顔してすやすや寝てるからさ、ちゅーしちゃったよね。」 「しちゃったよね、じゃないだろ!俺さっきお前に振られたばっかだろ⁉︎なんでそこでそんな事すんの!」 「つーか、軽くしたのに、煽ってきたの蒼衣じゃん!…あんなエロい誘い方してさ。そんな子に育てた覚えはないぞ。」 「育てられた覚えもねーわ‼︎」 違う。何かずれていってる。ついいつもみたいに軽口を叩いてしまった。 頭ん中ぐじゃぐじゃだ。 「初めてのキスだったのに…。」 夢うつつで、よくわかんないまま。いや、気持ち良かったのは覚えてるけど。 「俺だって初めてのキスだよ。」 紺がぽつりと言う。 「目、腫れてるな。お前、相当泣いただろ。」 骨ばった手で優しく目元を撫でられた。 あぁ、また泣いちゃいそうだ。 気を抜いてしまえば、あっという間に溢れでてきそうな涙を堪えながら核心に触れる。 「紺、困った様な顔してたから。俺、気持ちを伝えられればいいって本当にそう思ってたんだけど。あぁ、もう会えなくなるかもとか、言わなければそばにいられたのにとか、色々なことぐだぐだ考えちゃってさ。」 考えながら、ゆっくり話す俺をまっすぐ見つめて、小さなことも聞き逃さないように真剣に聞いてくれている。 「…結局紺が答えてくれるかもなんて浅ましい期待してたんだなって、気づいちゃってさ。 恥ずかしくなって逃げたんだ。」 「キスは…、多分俺のこと可哀想になって思い出作り的な感じでしてくれたんだろ?びっくりしたけど、ありがとな。ファーストキスが紺で嬉しかった。心配して追いかけて来てくれて、ありがと。 俺、もう大丈夫だからさ。」 心配させたくなくて、無理矢理作った笑顔はきっと紺にはばれてるかもしんないけど。 「思い出作りでキスした訳じゃないよ。」 黙ってずっと話を聞いてくれていた紺が口を開いた。 「蒼衣から告白されるとは思ってなかったから、死ぬほどびっくりした。何にも言えなくてごめん。嫌だとかは無かったし、それにも自分でびっくりしちゃってさ。」 ふいに立ち上がって鞄から卒業アルバムを取り出す。 怪訝そうに見つめてしまった俺を見ながら少し笑った。 「蒼衣、これ見た?」 ふるふると顔を横に振る。そんなの見てる余裕は無かった。 ベッドに腰を下ろしてアルバムを開く紺の手元を覗く。 開いたページには色々な行事の写真が載っている。 いつもの様に、つい真っ先に紺を探してしまう。ふとある事に気がついてしまって、じわじわと顔が熱くなるのを感じた。 そんな俺を見て紺がニヤニヤしながら、 「気づいた?」と聞いてくる。 紺が写っていた写真は3枚。 入学式と運動会と修学旅行。全てに蒼衣も写っていた。親友だから当たり前といえば当たり前だが、写真の中の蒼衣の視線はすべて紺に向いている。「はい、ポーズ」で撮られた写真ではなくて、みんなの様子を自然に撮ったものだった。だから余計に恥ずかしかった。日常的に紺をずっと見ていた事が。あからさまではなく、影からそっと、みたいな様子が。 真っ赤になって固まっている俺を紺がそっと抱きしめた。 「蒼衣、こんなに俺の事、ずっと好きでいてくれてありがとう。告白されて自分の気持ちに気付くとか、なんかださいんだけど。 俺にとって蒼衣は1番大事な人なんだって気付いたんだ。…遅くなってごめんな。進路も別々になっちゃうけど、俺お前とはこうなる前から一生付き合っていけると思ってたし。会えない時間なんかこれから俺らが過ごす時間のほんの一部だから。」 「病める時も健やかなる時も、ずっと一緒にいよう、蒼衣。好きだよ。」 「う、ゔわーん、ううー。」 紺の胸に顔を埋めてまたもや大号泣してしまう。 「プ、プロポーズかよ!振られたと思ったのに、展開早すぎて頭が追いつかないよ!う、うえーん」 俺の頭を優しく撫でながらひとしきり泣かせてくれた。落ち着いてくるとじわじわと嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。 いつまでも顔を上げれないでいた俺のほっぺたを両手で包んだ。 「もっかい、ちゅー、する、な。」 さっき覚えたばかりの甘いキスを繰り返す。 願わくば、この先ずっとこんなキスを重ねていけますように。病める時も健やかなる時も。 背中に回した手で掴んだ紺の上着をぎゅっと掴んだ。 end

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