8 / 1000

第8話

声を掛けた途端に希が飛び起きた。 一瞬、俺をキッと睨むと脱ぎ捨てられた服を素早く身に付け、テーブルの上のノートやペンを掻き集めて袋に放り込むと、無言で部屋を出て行った。 「希っ!待てよっ!!」 着替えの済んでない俺は慌てて身支度を整えると、階段を駆け下りて希を追い掛けた。 玄関のドアを開けた瞬間、日に焼けたアスファルトの焦げた匂いと、照りつける太陽の熱気が身体に纏わり付き、大音量の蝉の声が耳をつんざいた。 目に飛び込んできたのは今を盛りに咲き誇る向日葵の花。 その黄色に埋もれた目の端に、希が泣きながら自宅のドアを開ける姿が映った。 玄関に走り寄って何度もベルを鳴らし、ドアを叩いてその名を呼び続けた。 炎天下の中、どのくらい経ったのだろう。 待てども応答はなく、俺は諦めて汗だくのまま家に戻った。 俺…何てことしてしまったんだろう。 アイツに欲情して、それを打つけてしまった。 女でもないのに、無理矢理こじ開けて抱いてしまった。 謝らなくちゃ。許してもらえるとは思わないけれど。 希…希、ごめん。 でも、俺はお前のこと… 希の母さんが戻るのを待って、尋ねて行ったけれど 「ごめんね、風邪でも引いたのか気分悪くて起きれないって言ってるの。 せっかく来てくれたのに…ごめんね。」 と申し訳なさそうに断られてそれ以上は食い下がれず、とぼとぼと引き下がった。

ともだちにシェアしよう!