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そして卒業式
小さい怪物は、夏が終わる前に転校していった。九月からの新学期に間に合うように八月から二週間、語学学校へ通うらしい。転校して来たばかりだと言うのに、嵐のように人の心に踏み込んできて嵐のように消えて行った、思いきり人の心に爪痕を残して。
それから秋を超えて、冬を超えた。気が付けばふと溝内のことを考えてしまう。あいつも頑張っているのだから、俺がここで泣き言をいうわけにはいかない。そう思ってきた。時折送られてくる写真付きのメッセージが、充実した彼の地での生活を教えてくれた。
そして、あっという間に卒業式はやってきた。いざ卒業すなると、寂しいものだなと思う。
『先輩、いい加減な気持ちじゃありません。俺どっちも真剣なんです。先輩のこともバスケのことも』
溝内の気持ちが嬉しかった。けれど、いい加減な気持ちじゃないってどういう意味だったのだろう。会えない時間が積もると、あの熱い気持ちさえ単なる思い出の一ページとして綴られ現実味がなくなり、消えて行く気がした。そして、ここ三日、溝内からの連絡さえ途絶えてしまっている。
「近藤、そろそろ行くぞ」
荻野に声をかけられて移動しようと動いた、その時後ろから声がした。
「だから、なんでいつも一緒なんですか?離れてください」
「へ?お前……なんで、ここに……」
少し不機嫌そうな顔をした溝内がそこには立っていた。驚きすぎて腰が抜けそうになる。その様子を見て荻野が笑いながら「先に行くぞ」と離れていった。
「あれ?言いませんでしたっけ?短期留学ですって。まあ卒業式に間に合うように帰りを二週間だけ早めたのは事実ですけど」
「はあぁぁぁあっ?お前、馬鹿だろ。あ゛馬鹿だろ!」
「今日は、まだ時差ボケで眠たいんですが。先輩がそんなに喜んでくれるとは思いませんでした。式の後また先輩のご自宅にお邪魔しますね♡」
「来んな、お前。馬鹿だろう、なんだそれーーー」
【完】
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