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第10話
「好きです、本当に先輩のことが好きです」
そう必死に迫られて、とんでもない状況に陥った。いや、男ともセックスの経験はある。あるのだが、まさか自分が抱かれる立場になるとは微塵も思っていなかった。
圧し掛かかり、むしゃぶりつく溝内に押さえつけられてパニックになる。手足は確実に俺の方が長い、なのに押し付けられて動けない。体格差を超えて、力の差がある。
「先輩、すみません。本当にごめんなさい、でも……どうしても先輩が欲しいんです」
いやいや、待てよ。どう考えたってお前が抱かれる方だろう、なぜこうなるんだ。
「ど、どけっ、溝内。違うだろ、お前っ、おまえっ、どこに指突っ込んでんだ。止せって、馬鹿野郎、違うって、ちが……ぐはっ」
「優しくしますから、先輩、自分ちゃんと分かってますから」
分かってないって、無理だって。俺には無理だって、気持ち悪い、気持ち悪いだけだ。
「うぉおおおっ、退けっ、止めろーーー痛えって、いてぇーー」
「ごめんなさい、すみません」
すみませんと何度も謝りながらも結局、溝内の思い通り、俺の初体験となってしまった。
「先輩、あの、大丈夫ですか……」
「はあ゛?」
「大丈夫じゃないですよね……でも最後の方先輩の声出てましたし、まんざらじゃないってか。もう一回やり直し……あ、しませんね。睨まないでください」
家族が仕事で出ていて良かった。平日の昼間だから誰もいなくて本当に良かった。そして、何故か俺はしっかり溝内に喰われて、そして知ってしまった自分の気持ち「なんだ俺、溝内が好きなんじゃねえか」絶対に言ってはやらない、これは誰にも言えない俺だけの秘密だ。
「先輩、好きです」
「あ゛、なんだそれ」
「先輩、運命ですよ。自分は、実感しました。やっぱり運命ですよ」
「もうすぐ居なくなるやつが何言ってんだ」
「すみません、連絡します。必ず連絡します、待っててください」
「だから、どこにもいかねえって……」
その言葉を聞くと、溝内がずっと鼻をすすった。
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