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本当に。その双眸が涙に濡れても、眞洋自身が情けないと嘆いても、僕には綺麗に映るし、情けなくなんかない。眞洋は眞洋で、それは何も変わらない。
僕にとって、眞洋は何者にも変えられない。
「本当に、貴方は素敵な子ね」
「……僕は言いたい事を言ってる。眞洋は綺麗で、でも一番は、心が」
「―――…は」
「心が、綺麗なんだ」
真っ直ぐに見つめる双眸に、またぶわりと膜が張って、はらはらと雫が落ちる。頬に添えた僕の手を伝って、シーツにパタリと広がった。
「…抱きしめて、構わないか?」
「え、」
「今は、眞洋に泣いてほしいから、顔が見えない方が泣きやすいだろう」
ベッドの上で膝を立てて、眞洋の頭を胸に抱えるように腕を回した。
「……私、本当はあの夜、…最初は見捨てようとしてたのよ。人に関わりすぎるのは……よくないって思っていたから」
震える声で眞洋は言葉を繋げる。背中にまわった腕に、ふと息を吐いた。
「でも、貴方が見えて……体が勝手に動いたのよ。前にも言ったけれど、一目惚れって、言うのよ。一瞬で目を奪われて、……胸がざわざわして、…だから、」
「うん」
「…安心、…えぇ、そうね、安心したんだわ。貴方が私を怖がらないから…」
「怖くない」
「ふふ、くすなは本当に格好いいのね」
眞洋が鼻をすすりながら僅かに笑い、僕の背中に回した腕にぎゅっと力を入れてまた笑う。そしてパッと離れた腕に、僕も回していた腕をほどき、眞洋を見下ろした。
「…これからも、よろしくね。くすな」
「うん」
眞洋の赤くなった目元を親指の腹で優しく拭うと、擦り寄るように手のひらに唇を寄せて、眞洋が微笑む。
「ふふ、幸せだわ」
「……うん。僕も。幸せ、だ」
知らない事をたくさん知って、隣に眞洋がいればいい。僕にとってそれが幸せで、今までの価値観は全部塗り替えられてしまった。眞洋の所為だと笑えば、そうねと微笑み、唇を塞がれる。
ベッドにゆるゆると押し倒されて、小さく好きだと伝えた。
伝わればいい。毎日、不安にならないように。
きっと、お互いに必要だから出会えたんだと、そう言えば、「運命ね」と眞洋が心底嬉しそうに微笑んだ。
「運命…」
「そう。運命」
あの18年間も、眞洋に会うために過ごしたんだと、そう思えば有意義だ。このままずっと、きっと死ぬまで。
「キスして、眞洋」
また塞がれる唇に、互いに笑った。
―つま先に キス― 了
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