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王子様に振られました

「チカ。貴方には運命の人が居るのよ」 小さな頃からずっと母に聞かされ続けていた僕は、いつか運命の王子様が現れて僕を迎えに来てくれると信じていた。 だけどまさか本当に王子様に逢えるなんて、誰が信じようか。 そしてまさか見向きもされないなんて。 そんな出来事誰も想像出来ない。 僕の名前は近江惟親(おうみ これちか)。 家族からも周囲からもチカと呼ばれている。 資産家でイケメンな父と女優の母を持つからか、かなりの美少女顔だ。 尚且つ教育熱心な母が幼少期から英才教育をしてくれていたお陰で、良い感じに優秀。 可愛くて頭も良い上に、常に周囲から持て囃されていたら天狗になるのも当たり前。 Ω性に目覚めてからは余計チヤホヤされる様になった。 だからまさか自分が振られるなんて微塵たりとも脳内になくて 「ごめん。好きな人が居るから君とは付き合えない」 言われた瞬間、一気にプライドがズタズタになった。 彼と逢ったのは下校途中。 乗り継ぎの為に下車したJRの駅で偶然出逢った。 甘くて官能的な香りに誘われるまま近付くと、夢にまで見ていた本物の王子様が其所に居た。 キラキラ輝く麗しい容姿は正に美少女な僕にふさわしい相手だ。 こんなに素敵な人が運命の番なんて、なんて僕は運が良いのだろうか。 有頂天になった僕は 「見付けた。僕の王子様」 その人に駆け寄り、腕を絡ませた。 途端流れる甘い電流。 抑制剤が効きやすい体質のお陰で、僕は今迄一度も発情した事がない。 他人に欲情した事もない為キスさえ未経験だ。 初めて身体を支配した甘い熱。 胸が早鐘の様にドクドク煩い。 熱くなる身体。 蕩ける思考。 頭の中が彼一色になって、この人の物になりたいって心身共に訴えている。 これが運命の番か。 一瞬で心を奪われ、支配されたいと感じた。 連れが居るから、急いでいるから。 僕が話し掛けてるのに冷たい態度を取る王子様。 どうして? 僕は貴方の運命の番でしょ? 僕が感じた様に貴方も感じたでしょ? こんなにも一緒に居たいって感じてるのに、貴方は違うの? どうして僕を見ないの? 嗚呼、君が俺のお姫様なんだね。 ずっと探していたよ。 逢いたかったんだ。 君を迎えに来たよ。 一緒に幸せになろう。 想像していた甘い台詞。 運命の王子様に出逢えたら言って貰えると思っていた。 おとぎ話のお姫様みたいに幸せになれるって信じていた。 なのに現実は想像と全く違っていた。 「折角だから断る前に少しだけでも様子見てみたら?」 王子様のお母様に促され、僕達はデートをした。 生まれて初めてのデート。 少しでも可愛く見られたくて、中性的な服を選んだ。 髪もふわふわにし、小物も可愛らしい物をチョイスした。 鏡に映る自分は美少女でしかない。 男らしさは完全に消え失せたが、王子様の隣に立つ分には申し分ない。 緩む顔に力を入れ、王子様の隣に立った。 腕を絡ませるだけで熱くなる身体。 呼吸が乱れておかしくなる。 どうしよう。欲しい。 この人に抱かれたい。 誰も居ない公園のベンチで 「ねぇ。欲しいの。ちょうだい?」 初めてキスをした。 それは想像以上に甘くて脳内がトロトロに蕩けた。 痺れて思考能力が落ちる頭。 自分のとは思えない位暴れる心音。 官能的な香りにクラクラする。 きっと王子様は今から僕を抱いてくれる。 何もかもが初めてな自分にとって、それは少しだけ恐怖でもある。 でも、王子様になら何をされてもいい。 僕を好きにして? 甘える様に見上げる。 「……え?」 どうして? 来ると思い込んでいた熱い眼差しや甘い抱擁。 だが、眼前にあったのは顔色の悪い引き攣った嫌そうな顔。 「ごめん。やっぱり無理。吐きそう。ほんっとごめん」 え、何それ。 って、待って。 何処に行くの? 真っ青な顔で目の前から消えた王子様。 ぽつん。僕は1人公園に取り残された。 初めての発情。 初めてのデート。 初めてのキス。 ずっと夢見ていた。 なのに現実は全然甘くなくて、散々な物だった。

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