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第4話「寝顔」

 「いい加減起きろ」  枕をずいっと引き抜いた。桜井の頭がごとんと枕から落ちて、驚いたのか飛びはねて起き上がった。  「す、すみません!今、何時ですか?」  「お前は、時計の読み方を教わらなかったのか?」  指さしたその先にある時計の針は五時を指していた。  「朝の……」  「夕方だ馬鹿」  「もうこんな時間……失敗しました」  寝不足の状態で、盛りのついた猫のようにじゃれあったのだから仕方ないのかもしれない。仕方ないかもしれないが、この時間まで寝ていられるとは桜井は若いものだと思う。寝るのにも体力がいると知ったのは最近のことだ。    「あの、昨晩はすみませんでした」  「あ?何が」  「制御(コントロール)が効かなくなってしまって、羽山さんに無理させてしまったのはわかっています」  今更夜の話を持ち出されても、とんでもなく恥ずかしいだけで何の得があるというのだ。  「飯」  話を切り替えて、この場を何とかしのごうとした。  「あ、そうでした。今日はどこかレストランでも予約してと思っていたのですが、すべて台無しです」  「別に何も特別なことは要らん、ルームサービスでもとるぞ」  「そうですね、もう特別はたくさんもらいましたから」  「は?何のことだ?」  「腕の中で眠る羽山さんの顔、ずっと見てました。つい今しがたまで見てたはずでした。羽山さんの寝顔があまりにも愛しくて。ついさっき見た時計は四時だったので、それからずいぶん寝てしまったのですね」  愛情丸出しで、幸せですと宣言されるのは困る。どう対処していいのかわからない。こいつといるといつもこうなる。なぜ自分が桜井に自分のことで惚気られるのかと思う。  「……」  「あ、でも同じですね。私の寝顔ずっと見ていてくださったのですよね」  うれしそうな桜井の顔を見ながら、さすがに「そうだ」とは答えられず「馬鹿なことを言うな、飯頼むぞ」と告げた。 【夜をこめて】より桜井×羽山  

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