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その魂は、いつもひどく短命だった記憶がある。 智草は本のページを一枚捲り、四葉のクローバーでできた栞を挟むとパタリと閉じた。いびつな形をした墓石にはもう読めないほど削り落ちた文字が刻まれている。 腰掛けていた切り株から立ち上がり、着流しの裾についた草を払うと、ため息を一つ。 人の魂は輪廻転生し、繰り返される。呪いもずっと、解けることはない。智草は墓石の上に手を置き、またため息を一つ吐いた。 「……今回のあなたは、わずか10歳でしたね」 小さく呟いた言葉は、白くなった息と共に空中に離散した。     ◆アネモネの憂鬱◆ それは雪の日だった。 擦り切れたマフラーを首に巻き、ねぐらにしている洞窟から外へ出る。灰色がかった茶色の長い髪を無造作にまとめ、ハッと息を吐く。 僅かに雪が積もる木々の間から、小鳥の歌う声が聞こえた。春まではまだあったと思うがと、智草は首をかしげる。 「……おはよう、智草」 不意に聞こえた声に振り返れば、洞窟の出口のすぐ上の無造作に削られた岩場の上に、一人の鬼が座っている。 文字どおり、ひたいから二本の角が生えた、人ではない人型のなにか。 「………あぁ、牡丹。おはようございます」 ふわふわの白いファーのついた、黒のモッズコートに、白地に灰色で模様の描かれた着流しという似合わない服の合わせ方は相変わらずだと智草が呆れながら空を見あげた。 「先生はまた転生を?」 「転生、しているね。今は19歳と言ったところじゃないかな」 「今回は、百五十年、ですか。長いですね」 「……智草、分かっている筈だろう?お前が待つ先生と同じ魂でも、同じ人間は二度と生まれない。待つだけ無駄だと、言っただろうに」 牡丹が白い髪を揺らし、金の目が呆れた色をはらんだ。智草は牡丹を一瞥すると、里を目指し歩き出した。 同じ魂の転生を待つことが、間違いである事ぐらい分かっていた。智草は自分がどれだけ歪か、間違いを孕んでいるのか、とっくの昔に気がついていた。気がついていて、続けている。かつての〝あの人〟を探しては落胆している。 呪われた、半分人外の身でありながら、智草はずっとただ一人の〝人間〟を待っていた。

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