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サクサクと、小気味のいい音を立てながら山を降りて行く。随分と開拓の進んだ麓の方には最近人がだいぶ増え、賑やかになった。夜に明かりが漏れる場所があったり、笑い声が響いていたり。 智草は人が嫌いではない。が、人が智草を怖がるのだ。右目を覆う眼帯も、自身の右半身に刻まれた呪いも全てはそれが起因している。 しばらく道無き道を歩くと、僅かに開けた場所に出る。そこからは苔が生えた石階段を下り、両脇に屋根のように連なる木々の間をすり抜けた。 眼下に広がる雪景色にため息しか出ない。智草は人通りのありそうな道路に出ると、着流しの中に着ているスタンドカラーシャツの一番上のボタンを閉めた。以前、首の模様に怯えて逃げられたからだ。 近くのバス停の椅子に座り、手にしていた本を傍らに置いた。 「あの」 不意に声をかけられて、本に掛けていた指がひくりと引き攣る。声を聞くだけで智草は直ぐに転生した相手だとわかった。 「……なにか」 ゆっくりと顔を上げると、少しばかり顔色の悪い青年が申し訳なさそうに立っている。前髪を真ん中で分け、耳にかかる程度に切りそろえている。 同じだ、と智草は息を飲んだ。 「すみません、少し、気分が悪くて…休ませていただいても?」 「……どうぞ」 「ありがとうございます」 目の下に隈があり、顔色の悪さもそうだが、何よりふらついていて、今にも倒れそうだ。青年は椅子の背もたれに背を預け、深呼吸を三度すると、ゆっくりと目を閉じた。 「……あの」 「―――――…はい?」 目を閉じた青年に思わず声をかけた智草は、不思議そうに目を開け自分を見る視線に、もう一度、あの、と言葉を零した。 「風邪を、ひかれているのですか?」 「…あ、いえ。…いや、そんな感じ…ですかね」 「歩くのも辛いなら、送りましょうか?」 「っ、そんな!大丈夫です。迎えなら、ちゃんと…」 そう言いかけるも、ふと瞼が落ちかける青年に、智草ははっと息を呑みながら、傾いた体を支えた。 「無理をなさらないでください。あの、」 「……あ、すみません。近衛、と言います。四ノ宮 近衛です」 「―――…智草、と呼んでください」 〝先生〟と言いかけた言葉を飲み込んだ。 青年まで成長したその魂は、この先何年生きるのだろうかと智草は考える。自分は一体、この先何度、魂との邂逅を果たせば共に生きる道を見つけられるのだろうか。 縛り付けるこの〝想い〟そのものが呪いだと、智草にも薄々わかっていた。 それでも 「智草、さん」 名前を呼ばれる高揚感を、なくしたくないと思ってしまう。その声で、変わらないその瞳で。濁りない魂をその身に宿した人間を、智草は〝その人〟以外知らない。 何度、何百年繰り返しても、智草より早く逝くその魂の輪廻転生を、智草は止めてしまいたいとも、考えていた。

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