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バカップルの兆し

無自覚に惚気る獅子原理佳と、それに気づいて照れる兎丸慧のお話です。 * 「お前さ、いらない物を部屋の隅に寄せる癖、そろそろ直せば?」  それはリカちゃんの、この一言から始まった。  時は日曜日の昼過ぎ。場所は俺の部屋で、ベランダで煙草吸っていたリカちゃんは、部屋の片隅に積まれた雑誌を見てそう言った。  それは拓海が置いて行ったものや、毎週買っている漫画雑誌、気が向いた時に買うゲームの攻略本等が、適当に積まれている。 「慧君って物捨てられない性格してるよな。使うかもわからない景品置いてたり、配られたティッシュも残してあるし」 「だって、捨てるタイミングわかんないし。持っていたら使うかもだし」  簡単には捨てられない性格だということは、自分でも自覚している。だから極力、部屋には物を置かないようにしていた。その証拠に、前まではなかったクッションや観葉植物は、リカちゃんが買ってきたものだ。  だから、部屋の中が散らかっているわけではない。  わけではない…が、捨てるタイミングのわからない雑誌が、今も部屋の隅に山積みになっていた。 「次の木曜、廃品回収の日だから。今の内にまとめておいて、水曜の夜に捨てよう」 「なんで、そんな日にちまで知ってんだよ。お前は主婦か」 「生活していくのに必要な情報だろ。俺、ごみのある部屋で過ごすとか絶対に嫌だから」  綺麗好きなリカちゃんらしい提案に、特に断る理由もないから頷く。すると善は急げとばかりに、リカちゃんは自分の家からビニール紐を取ってきやっがった。  2人並んで雑誌や漫画をまとめてしまおうと、そんな計画らしい。まだ水曜日まで時間はあるのに……と言おうとしてやめた俺は、学習能力が高い。  リカちゃんに余計なことを言えば、その何十倍もの嫌がらせが返ってくるのは、既に経験済みだからだ。 「俺は雑誌、慧君は漫画な。あまり欲張って積み過ぎず、締める時は十字に」 「えっ、縛り方まで指定あんの?マジで主婦だなお前」  細かい指示に思わず出てしまった一言。それを聞き逃しはしなかったリカちゃんの眉が、ピクン、と跳ねる。片方だけ眉を上げることができるなんて、どこまで器用な男だろうか。 「ほぅ……雑誌じゃなく、慧君を縛り上げてやろうか?ぎっちぎちに締めて、肌に紐が食い込んで痛くて泣いちゃうぐらいに」  笑顔のくせに低音ボイスで落とされた脅迫としか思えない台詞。静かに首を振って遠慮させていただいた俺は、黙々と……それはもう、呼吸音すら消して作業に集中する。  そして数分後――。俺は、気づいた。気づいてしまった、気づけて良かった。   リカちゃんの手元にある雑誌の山の中には……例のアレがある、ということを。  

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