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10年後の君へ②

 朝、いつもの時間に目覚めると、枕元に見知らぬ本が置いてあった。  それは本というよりは冊子のような薄いもので、真っ白な表紙には何も書かれていない。  学校で誰かのが紛れたのだろうか。どうしてそれが枕元にあるのかは不思議だが、起き抜けの醒めない頭では考えが巡らず、不用心にも手に取ってみる。 「なんだ……これ」  その中身は、まるで日めくりカレンダーのようで毎ページに日付と短い文章が書かれていた。1ページにたった数行……変わった使い方だと思いつつも、その短い言葉に視線を走らせる。  例えば今日。 「×月×日。学校で教頭が転んだのを庇い、左手を痛める」  ありきたりな内容。されど、学校という単語が妙に気にかかる。とは言っても、これが学校で紛れ込んだのだとしたら、特に変なことではないだろう。  おそらくこれは、誰かの日記帳に違いない。思い浮かぶ答えはそれだけで、気怠い身体をベッドから起こし、リビングへと向かう。  簡単な朝食を用意してシャワーを浴び、全ての支度を終えた頃には、謎の本のことなどすっかり気にはならなくなっていて、仕事用の鞄にしまいこんだ。      そのうち誰かが探しに来るか、授業の始まりに軽く聞いてみるか……きっと、すぐに持ち主が現れるだろうと思っていた――のに。まさか。 「すまんね、獅子原先生」 「いえ。大きな事故にならなくて、良かったです」  普段通りの時間に学校に着き、車を置いた俺をまず初めに出迎えてくれたのは教頭だった。しかも階段から落ちてきたなんて、どれほどイレギュラーな展開だろう。  受け止めようと咄嗟に伸ばした腕は、教頭の肥えた身体を捉えはしたが、それで限界だったようで変に筋を痛めてしまった。病院に行く程でもない、軽い怪我。  それは左腕だった。 「獅子原先生?もしかして腕が痛むのか?」  黙り込む俺に、教頭の訝しげな視線が向く。咄嗟に浮かべた笑顔でそれを躱すと、早々に科目室に逃げ深い息を吐いた。 「まさか……気持ち悪い偶然、だろうけれど」  たまたま、偶然にも本の内容と一致しただけだ。学校、教頭、左手とピンポイントではあるけれど、時間的に教頭が学校にいてもおかしくないし、俺は左利きだし。  こんな偶然があることには驚くが、幸いにも怪我は大したことはない。早く持ち主にこの本を返し、忘れてしまおう。  この時はまだそう思っていた。  けれど、どれだけ待っても本を探す人物は現れず、各学年の各クラスで訊ねても誰も本のことなど知らず、終いには職員にまで確認をとったのに。  それなのに1週間が経っても、謎の本は俺の手元にある。  そして1週間……。  ――ことごとく、本に書かれている内容が的中していた。

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