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10年後の君へ③

 例えば2日目には事故で大渋滞に巻き込まれた。 学校までは車で5分ほどなのに、不運なことに30分以上かかり、遅刻ぎりぎりになってしまった。  3日目は大雨だった。  朝は清々しい青空だったのに急な雨。天気予報ですら誰も言っていない、予測不能な天気の崩れだったのに、的中した。しかもそれは、この地区のみの小規模な範囲での豪雨だった。  そして4日目には科目室の換気扇が壊れ、窓を開けざるを得なくなってしまった。雨上がりで花粉の量が多く、目が痒くて1日を眼鏡で過ごした。  5日目は近くの花屋の店員に告白され、それを学校の生徒に見られた。それに気づいた6日目、ウサギの機嫌が悪くて困り、7日目にやっと許してもらえた。  全て、本に書かれていた通りの内容。  こういうことが1週間も続けば、見て見ぬふりはできない。  急に現れた謎の本。俺に黙って家に入れるのは兎丸慧のみで、1週間後の夜にウサギの家にその本を持って行った。ソファに座ってスマホの画面を凝視していたウサギから、それを奪う。  嫌そうな顔で見上げてくるその顔に、突きつけるように本を差し出した。 「これ、お前の?」 「は?そんなの知らねぇ。いいから早くスマホ返せよ」 「本当に慧君のじゃなくて?今なら、変な悪戯も許してやるけど」 「なんだよ、変な悪戯って。意味わかんないんだけど」  しらを切ろうとしているのではなく、本当に何も知らない素振りを見せるウサギに、首を傾げるしかない。  そもそも、兎丸慧というのは極端に嘘をつくことが下手だ。軽く探りを入れれば逃げ出すか、怒るかのどちらかがいつものパターンである。  と、なれば。  どうやら本当に慧君の仕業ではない……ということで。では誰がいつ、どうやってこれを家に置いたのだろうか。知らないうちに忍び込むだなんて、容易にできることではない。  背筋を走る、不快感と得体のしれない恐怖。誰にも向けられないそれの行きつく先は、不気味な薄い本のみ。  言葉を失い、立ち尽くす俺からそれを奪ったウサギが、表紙を捲る。そして短い文章を数秒で読み終えた後、目を眇めて鼻で笑った。 「当たってんじゃん。なに?リカちゃん、とうとう嫌がらせでもされた?」  その視線は俺の痛めている左手へ。生意気ながらも微かに心配と不安が織り混ざった表情に、予想が確信に変わった。  本当にこれは、兎丸慧の仕業ではない。困らせることはあっても、慧君が俺に怪我をさせるなど、冗談でも思う訳がない。そしてそんなことを考えるやつが、こうして心配してくれるわけがない。  俺の部屋に入れるのは、自分と兎丸慧だけ。  そしてそんな俺の部屋に突如現れたものは、全く身に覚えのない謎の本。  そこに書かれた一度も外れなかった予言。  あり得ないだろうと思った事ですら、ことごとく当たった予言。  そこから導き出されるのは、非現実的であり得ない事。けれど、そうとしか思えない『あり得ないけれど確かな現実』だ。  きっとこの本には、俺の未来が書かれているのだろう。そしてそれは、この1週間での経験上、良くないことばかりなのだろう。

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