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ツンデレラ①
世界のどこか片隅。ひっそりとした山地に囲まれて建つ、とある王国には美しい王子様がいるらしい。その柔らかな薄茶の髪は絹糸のように細く煌めき、手入れの行き届いた肌は陶磁器のごとく滑らか。
まるで薔薇が咲いたかのような唇は艶やかに濡れていて、ふっくらと人を誘う……そうな。
しかしながら、1つだけ難点を上げるとするのなら――。
「嫌よ嫌よ嫌よーっ!!あたしはお見合いなんかじゃなく、身も心も燃えるような素敵な恋がしたいのっ!!!」
オカマなことぐらいだった。
* * *
「桃、朝からうるさい……誰がお前みたいなオカマ好きになるか。見ろ、お前の奇声の所為で鳩が逃げて行った」
「ちょっと豊!!あんた執事のくせに生意気よ?!あたしはこの国の大事な大事な、大事な跡継ぎ様なんだからね!」
「黙れクズ、さっさと着替えろカス。こっちは忙しいんだから、自分のことぐらいは自分でしろ。この歩く騒音機、次また騒いだら街のバザーで売りに出すぞ!」
「悪口のオンパレード!!!」
時は早朝。窓の外には青々とした空が広がり、洗濯物もすぐさま乾いてしまいそうな清々しい初夏。この一連の流れを見ていた皆が思った。
(あぁ……今日も我が国は平和だなぁ……)
オカマで夢見がち、自己主張の激しい王子様である『桃』と、堅物で口うるさく、小動物を愛する強面執事の『豊』の言い合いは日常茶飯事。それが急に始まったところで、城には仕事の手を止める者はいない。
そして、その一方。
城下町の外れにある、こじんまりとした家では……。
「おいウサギ。お前また俺の枕使っただろ」
「使ってねぇし」
「それは嘘だな。ほら見ろ、ここに涎がついてんだよ」
「……そんなの俺のじゃねぇし。俺のだって証拠もないし」
「いいや、この匂いはお前の物で間違いない」
「匂いでわかるのかよ!!てめぇは変態か!」
至極ありふれた小さな屋敷。そこに住むのは俺様で少しS気質な継母『リカ』と、口が悪く態度も悪く、どんな時も生意気な少年『ツンデレラ』である。
なぜ継母がツンデレラのことをウサギと呼ぶかは…………置いておいて。
「変態とは、これまた随分な言い分だこと。と言うか、俺が俺の物をどうしようが俺の勝手だろうが」
「リカちゃん、うるさい。俺は涎の匂いを嗅ぐことに対して変態だって言ってんだよ」
「明らかにお前の涎だってわかってるんだから、嗅いだところで何も問題はない」
「いや、さ……。わかってて嗅ぐ方が余計に変態だって」
「そうか?ウサギの言っていることが、いまいち理解できないな……」
呆れ返るツンデレラを前に、継母は首を傾げる。その手には、ツンデレラの物とみられる涎で汚れた枕が握られていた。
この継母の呼び名はリカ。リカの本名は、ツンデレラを始めとして、街に住む誰も知らない。
気づけば突然街に現れ、この家に住み着いたリカに類い稀な話術で丸め込まれたツンデレラは、いつも苛められ可愛がられてきた。その度に怒り、拳を震わせて宣言するのである。
「もう我慢の限界だっ!こんな家出て行ってやる!!」
これはそんな王子様(仮)と不憫なツンデレラの物語。
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