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ツンデレラ③

 他にもたくさんあるのに、よりにもよって人が食べている物を奪おうとする。けれど、リカちゃんが本当に奪おうとしているのはクッキーではなく、別の物だってことに俺は気づくべきだったのかもしれない。  それを察した時には既に遅く、2人の間には何も残っていなかった。 「なっ?!ちょ……リカちゃん、あっ」  口元から零れた食べかすが足元に散らばるけれど、リカちゃんは気にもせず口付けを深めてくる。せっかく掃除した絨毯を汚し、チョコレートを踏みつけ、俺の身体に圧し掛かってくる。 「んっ……ふ、ぁ……やだ、待っ」 「うん、我ながら悪くないな。もっと食べさせて」  口内に滑り込んだ舌が甘いのは、食べていた菓子のせいだけじゃない。どちらのものかわからない熱に溶かされたチョコレートが、舌の上や歯の裏に絡まる。  それだけでも恥ずかしくて頬が熱くなるのに、何度もリカちゃんに教え込まれた身体は別のことに反応して火照る。  いつの間にか甘い味は消えて、口の中には何もなくなって、感じるのはリカちゃんの長くて、少しだけ薄い舌の感触だけ。追いかけて追いかけても、逃げて行ってしまうそれだけだった。 「リカ、ちゃん。リカちゃん……っ、ふ」 「なあに?もしかして、もっと欲しいとか?」  どんなに高価な砂糖よりも甘く、どれだけ綺麗に咲く花の蜜よりも濃い声は、俺の頭と身体を溶かす。誰にも見られないように隠れていた快感が、最奥でじりじりと疼いていくのを感じた。  そして、その疼きを爆発させるスイッチを持っているのは1人だけ。  その上、その疼きを止めることができるのも、この世に1人しかいない。 「ほら。可愛い可愛いツンデレラ。おねだりだけは、お前の得意分野だろう?」  さっきまで菓子を作っていた手がドレスの裾を捲り、するすると上へ伸びてくれば口が勝手に動く。リカちゃんが言った通り、何も出来ない俺の唯一の特技が、ここで発揮される。 「お願い、リカちゃん。今日もいっぱい……いっぱいシて」  リカちゃんによって教え込まれた誘い文句を聞き、それを言わせた当人は艶っぽく笑う。  俺の耳にリカちゃんが舌を這わせれば、そこからダイレクトに響く生々しい水音と、人よりも僅かに低い彼の体温。  そして、耳元で囁かれるのは官能的で甘い睦言。 「やっばぁ……いっぱいシてほしいって言ったこと、後悔するかもね。ウサギちゃん」  その言葉だけでゾクゾクするんだから、俺の身体は末期だ。

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