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3. Because I Love 1

「カーイくん! 今日、俺んちでエッチしよ?」 放課後の教室に響く破廉恥な台詞に唖然とするクラスメイトたちの顔をザッと見渡してから、俺は目の前で満面の笑みを浮かべる美少年の天真爛漫っぷりに溜息をつく。 クリクリした目で上目遣いに俺を見つめる顔は、変態にもかかわらずきれいに整っている。見る者を惹きつけずにはいられない眩しいほどの愛らしさ。こいつにこの外見は、全くもって無駄だと思う。 周りの視線をものともせずにこちらに向けられるのは、こんな性格でさえなければ老若男女を落とせる極上の笑顔。 「あ、間違えた。勉強しよ?」 「断る」 お前の魂胆は第一声で俺どころかクラス中の人間にお見通しだ。 絶対に視線を合わせないように目を伏せながら机の上にカバンを置いた途端、頭上から呑気な声が降り注ぐ。 「だって、今日はどうしてもうちに来てもらいたいんだもん。どうせ今から自習室に行くんだよね? だったら俺んちで勉強するのと、別に変わらないしっ」 変わるよ。お前絶対勉強する気はないだろ。 ちょこまかと回り込んでは顔を覗き込んでくるそいつを無視したままノートをカバンに入れ終えて足早に立ち去ろうとしたところを、後ろからガッツリと掴まれてしまう。 「だったら俺も、カイくんと一緒に自習室に行って、真横にべったりくっついちゃうからねっ。黙々と勉強するカイくんの傍で、スマホで写真撮ったり、色々想像したり、ハァハァしてスリスリしたり、ちょこっと舐めてみたり、うああ、むしろそっちの方がいい……!」 アホか。 振り返ればうっとりと俺を見つめる瞳が興奮して泣き出しそうに潤んでいる。ああ、どうして神様はお前を変態にしたんだろう。 こいつの収拾のつかない妄想を回収できるのは、世界中に俺しかいない。だから、俺は渋々口を開く。 「お前の家に行ってもいいけど、絶対に勉強するだけだからな」 「わあ! カイくん、イケメン……!」 俺の学校公認ストーカーを称するこの美少年の名を、七瀬という。 閑静な住宅街の一角に建つ七瀬の家は、手入れの行き届いた庭に青々とした芝生の広がる立派な一戸建てだ。 俺がここへ来るのは三度目だった。会ったことはないが、両親と弟の四人家族で、母親は七瀬そっくりらしい。似ているのが顔だけならいいが、もしも性格がこの調子なんだとすれば、今後も会わないに越したことはないと心底思っている。 「今日は、夜になるまで誰も帰って来ないんだよね。だからカイくんを呼んだんだけど、ふふ」 みすみす罠に掛かっているこの状況にうんざりしながら、俺は七瀬に続いて玄関から部屋へと向かう。

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