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2. Present for Me 6
感極まった顔で俺を見つめて、荒い呼吸の中そんなことを言う。変態でエロくて、顔だけは抜群にかわいい七瀬。いつもながらに流されてしまったことを苦々しく思いながら、俺はまだ言うべきことを口にしていなかったことに気づく。
「七瀬、誕生日おめでとう」
改まって言うのも気恥ずかしいなと思いつつポツリとそう伝えれば、七瀬は一瞬きょとんとした顔で俺を見つめて、ふわりと頬を緩ませた。
「へへ、ありがとう」
この上なく幸せそうに、極上の微笑みを見せる。キラキラと輝く瞳はいつだって俺しか見ていない。
「十七歳になっても、カイくんのこといっぱい追いかけるね!」
いらん。
深々と溜息をつきながら、いつか七瀬が俺を諦めるときまでグダグダとこうしているような気がしていた。
結局汗やら何やらでドロドロになったせいで、二人で風呂に直行する羽目になった。
シャワーを浴びて身体を洗い流し、きちんと服を着た七瀬は、さっぱりとした顔で俺に抱きついてきた。
「カイくん、超イケメン! 大好き」
「暑苦しいって」
いつものようにそれを振り解きながら、無邪気な子どもみたいに屈託なく笑う同級生のきれいな顔を見れば、なぜかほんの少し罪悪感に苛まれる。
それは、きちんと想いに応えてやれない自分に対するものなんだと思う。
「七瀬。何か欲しいもの、ないのか。ほら、一応誕生日だからさ」
玄関先で別れ間際にそう付け足した俺に、七瀬は不思議そうな顔を見せる。
「もうもらったよ? カイくんのおちんちん」
いや、そうじゃなくて。
黙り込む俺を、七瀬は大きな目を少し細めて喰い入るように見つめてくる。その眼差しは、ほんの少し悲しげな色をしていた。
「……カイくんの、"好き"が欲しい」
どくん、と心臓が大きな音を立てて鳴る。
思わずその言葉を口走ってしまうよりも早く、七瀬は俺にぴょんと抱きついて来た。
「なんてねっ」
遠慮がちに押しつけられた唇は、蕩けそうなほどに柔らかい。マシュマロのように甘く軽いキスが、俺の胸をチクチクと刺激する。
「カイくん、また学校でエッチしようね!」
照れ隠しのようにそう言い残して、七瀬は扉の向こうへと消えて行く。ボディソープの仄かな香りを残したまま。
華奢な後ろ姿の残像は、週が明けるまで俺の脳裏から離れそうになかった。
"Present for Me" end
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