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3. Because I Love 3
「これ、南米産のチョコレートなんだって。戴き物なんだけど、すごくおいしいらしいから、カイくんと食べたいなって思って。だから、うちに来てもらいたかったんだよね」
俺は別にチョコレートが好きなわけでも何でもないが、はにかみながらそう言う七瀬はちょっと、本当にほんのちょっとだけかわいいと思った。
「だから、一緒に食べよ?」
氷の入ったグラスを手にして飲むと、無糖のアイスティだった。一口飲んで喉を潤せば、テーブルを挟んで俺を喰い入るように見つめる七瀬の顔が視界に入る。
「ねえ、カイくん」
細い指先で摘まんだチョコレートを、七瀬が嬉しそうな顔で俺の口元に持ってくる。
「あーん、して?」
「いやいや。そういうの、いいって」
「カイくん、一生のお願い」
「お前、毎日生まれ変わってるよな」
七瀬の口からもう何百回聞いたかわからない一生のお願いに呆れながらも、俺はそれを邪険に振り払うほどの冷たい態度を取ることができない。それは断じて七瀬のためではなくて、一生のお願いを無下に断っていちいち良心の呵責を感じるのが嫌だからだ。
仕方なく口を開けば、大きな粒が差し込まれる。舌の上でぬるりと蕩けていく濃厚な甘みは、確かにその辺りで気安く買えるチョコレートとは違った味わいだった。
「おいしい?」
七瀬が身を乗り出して顔を覗き込んでくる。口の中のものをごくりと飲み込んだそのとき、唐突に舌先でピリリとした刺激を感じた。気のせいかと思いきや、その感覚はじわじわと喉奥まで広がっていく。
「七瀬、これ」
なんか、変じゃないか?
俺がそう言う前に、七瀬は自分の口にそのチョコレートを放り込んでいた。
「──ん?」
「待て、食うな。吐き出せ」
細い腕を掴んで身体を引き寄せると、前のめりになった七瀬はびっくりしたような顔で俺を凝視する。その口の中に指を突っ込もうとするのに、なぜだか頑なに歯を食いしばって唇を開こうとしない。
「こら、何やってんだ」
「ん、やら」
どういうわけか七瀬は必死に指の侵入を阻止しようとしている。焦った俺は七瀬を更に引き寄せて背中をがっつり抱え込んだ。
「──ああ、もう……!」
片手で後ろから頭を押さえて口づける。舌先を唇の隙間に挿し込めば、さっきまであんなに拒まれていたのに拍子抜けするぐらいあっさりと口の中に入ることができた。
七瀬の舌に乗っている固形物はもう形を崩し始めている。ぬるりと生温かいそれを舌で掬い取り、自分の口の中に移した。
結局、溶けかけた甘ったるいチョコレートをそのまま飲み込んでしまう。
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