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『あれ?啓太じゃん!!』
BARに入るなり名前を呼ばれ、声がする方向に目をやる。
『おう…』
そこにいたのは元カノの羽野 千秋(ハノ チアキ)だった。
『一人?』
『一人。』
『偶然!!私も一人。隣空いてるよー。』
カウンター席、自分のカバンをどけて勝手に席を作られそこに座らされる。
俺、今一人で飲みたいんだけど…
そんなことも言えず酒を頼む。
『本当久しぶりだね。別れてからだから二年か…』
『そうだな。』
千秋とは偶然出会った。
その当時も俺は女を取っ替え引っ替え遊んでいた。
今日はどいつにしようかな…なんて、このBARで飲みながら携帯をいじっていると、カウンター席で飲んでいる女が一人。
横顔がすごく美人で惹かれたのは確か。
一発ヤッてやろうかな?なんて最低な考えの中近付いた。
話をしているうちにヤるとかヤらねぇとかそんなことどうでもいいぐらいに楽しくて…
その日は連絡先だけ交換して別れた。
そこから他愛もないメールや電話の末、俺たちは付き合うことになった。
千秋との付き合いは楽しかったが、やはり忘れられない陸の影。
そんな影が見え隠れしていたせいか、ある日突然千秋に別れを告げられた。
「私は忘れられない人の身代わりじゃない!!」
そう言われたが、正直なところ身代わりにすらなっていなかった。
それほどまでに俺は陸のことが好きで…
忘れられなくて…
それ以来、こんな風に人を傷つけてしまうのなら…と特定の人を作らず割り切れる関係の人間とだけ体の関係を持ってきた。
『忘れられない人とはどう?』
『あぁ…別になにも…』
別になにもじゃない。
今日あったことが頭に蘇る。
『まだ忘れられない?』
『どうだろ…』
白石に、今日のことは忘れてください。と言われた。
高校時代のことを忘れられない俺が、今日あった出来事を、あぁそうですか。で、忘れられるわけないだろう…
千秋に話しかけられてることも忘れるほど今日のことが頭に浮かんで軽く忘れろと言う白石に少し腹が立つ。
『やっぱ…忘れられてないね…』
『えっ?』
『顔に書いてある。忘れられません。って…』
『…』
『私もね、忘れられないんだ…』
『なにを?』
『啓太と付き合ってたこと…別れよって言ったの後悔してる。』
サバサバした性格だった千秋の目に少し涙が浮かんでいて、なぜだか心がキュッとなった。
『そっか…』
『私じゃダメかな…今更その人の身代わりでもいいなんてバカみたいだけど…私じゃダメかな!?』
すごい勢いで言われ驚いた。
それに頷いてしまう俺は、
本当にバカだ…
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