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第2話 「よく笑う彼」

 また夢だ。今日見た森が目の前に広がっている。俺は座り込んでいるらしく、視線がいつもより低く感じる。 『リエン!今日は早かったんだな。』  ニッコリと人懐っこい笑みを浮かべる彼、俺じゃない俺のことをリエンと呼ぶが、俺じゃない俺・・・、リエンはよく笑う彼を何と呼んでいただろうか?  そんなことを考えていると、目の前に広がるものがうっすらと白んでゆき、それから黒く塗りつぶされた。  それからすぐに目を覚ますと、小さく欠伸を零す。今日は泣いてないな、と目を擦る。明るさを感じない・・・、早く起き過ぎたか?と内心呟きながら、眠気でショボショボの目を何度か瞬きすると、ようやく視界がぼやけずに見える。 「・・・え?」  周りを見ると、どうやら夜の森の様だった。人は本当に驚くと、声が出ないらしい。小さく呟くような声しか出なかった。  ・・・夢?頬に感じる風は冷たく、地面に手をつき、尖った小枝が手のひらに刺さると小さな痛みを感じた。夢じゃないと分かると、小さな痛みが強くなった気がした。その痛みを感じるとともに驚きに隠れていた小さな恐怖が顔を覗かせた。  その恐怖から咄嗟に立ち上がり、どこに向かえばいいのか分からないが、『早く早く』とだけが頭の中で繰り返し、ひたすらに走り続けた。家で寝ていた為、靴なんて履いているはずもなく、小枝を踏み、足の裏を怪我した。それでも走り続け、森を抜けた。するとそこには、レンガの町が広がっていた。明かりはないが、うっすらと見える町並みは明らかに自分の住んでいた所ではないと分かる。  ・・・もしかしたら、森を抜けると、帰れるかもしれないと期待していた分、それが違うと分かると、またしても小さな恐怖と、一人でいる心細さで涙が溢れそうになり、その場にしゃがみ込む。  何も聞こえない様に耳をふさぐが、いろんな・・・いや、夢で見ていた、よく笑う彼の声とリエンの声が聞こえる。懐かしく、寂しく感じる声を聞きたくないのに、何故か聞こえる。どうしたら聞こえなくなる?どうしたら・・・、としゃがみ込んでいると、すぐ目の前に光っている何かに気付き、顔を上げる。すると、夢で見たよく笑う彼が居た。  透けて見える彼の姿に、驚いたというふうにしか感じず、ボーッとそれをただ見つめていた。すると、急に頭の中で名前を呼ぶ声がした。「ヴィン・・・」と小さく口にすると、衝動的に名前を叫んだ。 「ヴィン!!」  そう叫ぶと、一瞬、幻の彼がこちらを見た気がした。 ーーー  ポロポロと流れる涙が止まることなく、情けないと感じつつも、涙はそのままで『智は・・・』といつも通り、彼を探した。・・・でも、どこにも居ない。  居ないなんて、そんなはずはない、と焦りを隠すことが出来ず、ギュッと強く拳を握り締める。 「レイヴィン、今日は観察・・・って、どうした?」  急に掛けられた声に驚きを隠せず、バッと勢いよく後ろを振り向く。すると、自分と同じ金の髪と金の瞳を持つ人物が首を傾げて立っていた。 「・・・ステイン。また何かしたか?」 「何がだ?」  ステインは分からない、といったようにこちらを見遣っていた。ステインの仕業じゃない、のか?とじっと見つめると、「大丈夫か?」と声を掛けられた。なら、どこに?と智の居場所を探る。 「お前の大事な子、見失ったのか?」 「うるさい、ステインこそ何してんの?俺、ちゃんと仕事したし。」  探すのに集中してるにも関わらず、話しかけてくるステインに面倒だと思いながら、探る範囲を広げる。 『どこにも、いない・・・何でだ?』  焦る気持ちからギリッと強く噛み締めると、小さく、でも、近くで「ヴィン・・・」と聞こえた気がした。まさか、と探す範囲をこちらに移してみた。  すると、強く泣きそうな声で「ヴィン!」と呼ばれた気がした。リエンと違う・・・智の声だとすぐに分かった。行かないと、と思ったのは瞬間的だった。 「おいッ、レイヴィ・・・」  ステインの声が聞こえつつも、それに答える余裕もなく、智の所へ向かう。  すると、うずくまって肩を震わせる智を見つけた。どうやら、泣いているらしい彼を見ると、ギュッと胸が掴まれるような痛みを感じた。早く笑ってほしい、と思った。いつも遠くから見守っていただけの存在だったのに愛おしく感じる。 「リエ・・・いや、智。」  俺の呼ぶ声に反応したらしい智は顔を上げて、こちらを見た瞬間、大粒の涙が溢れさせていた。それを見た瞬間、走って駆け寄り、抱き締めていた。自分の行動に驚きつつ、縋る様に抱き着く彼の様子を見て、間違えじゃなかった、と更に強く抱き締めた。  それはまるで離れていた長い長い時を埋めていくように感じた。

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