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第7話
side:R
その日は、と言うより最近、どうも気分が優れない。・・・理由は分かっている。分かってはいるが、何もしたくない、と言うのが本音だ。どうかしようとすると、俺だけでなく、海斗まで傷つけてしまいかねないから、という理由を付けて何もしないことにした。
自分の中でそう決めたものの、どうも表に出てしまっているらしく、海斗に心配かけてばかりだ。昨日だって・・・、と思い出していると、吐きたくもない溜め息が次々と零れる。
・・・今日だけでどれだけの幸せが逃げただろうか・・・って言っても、元々俺にはないものだ。心配せずともなくなることはない、寧ろ・・・とそんな暗い思考に沈みかけていた所に職員室ではめったに声を掛けない親友の声が聞こえた気がした。
「・・・い、工藤先生。」
「え・・・?」
「やっと、気付きましたか、三回目ですよ。」
・・・気のせいじゃなかったらしい、と内心苦笑を零しつつ、「すみません。」と返事をすると、天音が「お前もかよ。」とボソリと俺だけに聞こえるように呟いた。
・・・お前、も?と疑問に感じながら、「何かありました?」と呟きを無視して表を繕った。
「先生のクラスの新谷君が気分が悪くなったみたいで、保健室に居ますので、1,2限の欠席届けを持ってきたんですよ。」
小さな紙を2枚、欠席届を差し出しながら言われた言葉に目を見開く。・・・気分が悪いなんて昨日はそんなこと、全く言ってなかったじゃねェか、と動揺に揺れながら、「そ、そうですか。」と受け取りながら小さく返事をする。
すると、付箋が右上についている。そこに海斗の文字が見えた。
『ごめんなさい、でも大丈夫。ちょっと寝不足なだけな上に天ちゃんが心配性なだけだから』
その文章に少し気分が落ち着く。・・・本当、重症だな、と自嘲を零しながら、付箋を外した。
「あ、記入漏れがありましたね。」
天音は欠席届を取ると、端にシャーペンでサラサラと何か書いては俺に見せてきた。
『3限目、何もないだろ?保健室に来てやれ!』
天音は「これで大丈夫ですね。」と似合わない外用の笑みを張り付けたまま、欠席届を再度、俺の手元に戻した。
「・・・そうですね。では、預かっておきます。」
そう返事をしながら、分かったという意味も込めて頷いて見せると、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて、「では、失礼します。」と天音は出て行った。
はぁ、と何度目か分からない溜め息を零し、昨日の海斗とのやり取りを思いだした。そして、保健室に、天音と居るということも思い出しては、・・・また少し、心の中を占めていた黒い何かが広がった気がした。
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