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第26話
あれから、2週間近くが経った。
千秋ちゃんとは2〜3回連絡を取った程度で、内容は大したことなくその日の天気とか体調を気遣うやり取りしかしていない。
同じマンションに住んでいても、今まで会わなかっただけあって1度も会えていない。
特に、寂しいとか会いたいとか、そういう感情もない。
俺は、いつもの日常に戻っていた。
会社の最寄り駅で電車を待ちながら携帯をイジっていると、千秋ちゃんから連絡がきた。
「三ツ星書房の裏にネコがいました」の可愛げのない文章と一緒に、ネコが丸まって寝ている写真。
画像の左上に、千秋ちゃんの指が入っていたところにクスッとしてから「今から行ってもいい?」と返信していた。
ネコが見たいだけだから……と、どちらかといえば犬派の自分に言い訳をして。
いつもならこんなに早く返事をしないことと、今から会えるかもしれないという期待が入り交じり、最寄り駅までの時間が短く感じた。
バイト中なんだから、当たり前にまだ返事はないものの、ホームに降りた俺は足早に三ツ星書房へ向かっていた。
家とは反対方向の改札から出て、細い道に入ると本屋がすぐに見える。
窓から覗く…事はせず、ネコがいたという本屋の裏に行ってみると、10分程前のことなのに千秋ちゃんもネコもいなかった。
このまま裏にいても、不審者扱いされるだけだろうから、久々に本屋を楽しもうと目当てもないまま店内に入った。
三ツ星書房に来たことはなくても、懐かしく感じる本屋の匂い。
本の印刷に使われるインクが、紙質によって違う匂いを発して、それが混ざった匂いだ。
スゥッと息を吸って、サラリーマンらしくビジネス本コーナーへ向かう。
初歩的なソフトの操作方法から、お金の稼ぎ方、プレゼンのコツまで、様々な本がある。
特にこれと言って、手に取る程そそる内容はない。
俺の目当ては、本当に千秋ちゃんだけみたいだ。
そうと思えば、唯一人のいる音がするレジを見ようと、少し移動してみるとお目当ての千秋ちゃんが見えた。
ピッピッ音を鳴らしながら、一生懸命レジで商品を読み取っている。
お客さんへ袋に入れた商品を渡すとき、丁寧に両手で持ち、恥ずかしがり屋な千秋ちゃんがお客さんの目を見ながら微笑んでいた。
「ありがとうございました」
ここ2週間なんともなかった心臓が、激しく動き出す。
俺が知らない千秋ちゃんの姿にドキドキして、その場から動けなくなってしまった。
「あれ?仁先輩?」
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