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第25話

「えっ!」 千秋ちゃんは、驚きながらも期待に溢れた目をキラキラと輝かせた。 それに気を良くした俺は、千秋ちゃんの反応を楽しむように、含みを持たせた言い方をした。 「誕生日、何してるの?」 「あの、えっと……その日バイトを入れちゃって…」 「じゃあ俺の入る隙はないか〜」 「そんな!!バイトの後……もうバイト休みたいです〜」 眉毛を下げて、俺と誕生日を過ごしたいがために、一生懸命話す千秋ちゃんがあまりに可愛くて、抱きしめそうになった。 あんまり意地悪するのも良くない。 「だーめ、何時にバイト終わる?」 「17時あがりです…」 「俺も12日は仕事があるから、17時に合わせて迎えに行くよ」 千秋ちゃんの顔が、パァッと明るくなった。 声を出さずに口をパクパクさせている様子を見ると、俺の方が嬉しくなる。 「嬉しい?」 そう思わず聞いて頭を撫でれば、千秋ちゃんはコクコクと頷いた。 「お迎えなんて贅沢なことしてもらって良いんですか?」 「そりゃあお迎えくらいするよ〜」 千秋ちゃんは「ふふふ」と笑って、嬉しそうに顔をくしゃっとさせた。 「どこでバイトしてるの?」 「駅近くにある本屋さん分かりますか?」 「あ、あのー三ツ星書房?」 「そうです!来たことありますか?」 「あった……かなぁ」 「ふふ、僕ほとんどバイトに入ってるので来てたら会ってましたね」 同じマンションにいるのに、何年も会わなかったんだ。 行動時間も場所も違って、今一緒にいるのも奇跡のようなものだなぁとぼんやり思った。 「じゃー、今度行ってみようかな〜」 「ほんとですか!また…会えるんですね」 「そうだよ!あたり前じゃん〜こうやってご飯も食べようよ。俺も気軽に誘うし、千秋ちゃんも誘って」 決して“付き合ってるから”という言葉は、俺の口からは出せなかった。 それでも、千秋ちゃんは嬉しそうに笑う。 「僕、昨日からずっと夢の中にいるみたいです」 白い肌を赤く染めて、そう言った千秋ちゃんのことを直視できなかった。 胸がズキンと痛み、どうしようもならない気持ちになる。 缶に残った酒を一気に流し込んで、この気持ちを紛らわした。

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